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その日の夕暮れ。
飛鳥は尊の言いつけを破り、公園で一人、時間を過ごしていた。
すると、もう時期夏が来るというのに、どこからともなく冷ややかな風が吹いた。
肌寒さを感じて二の腕を抱いていると、女の声が背中から聞こえた。
「そこの女の子、ちょっといい?」
驚いた飛鳥は首に下げていたブザーを握りしめ、恐る恐る振り向いた。
目の前には、黒ずくめの女が一人立っていた。女は肩に弦楽器のケースを背負っており、鋭い眼光を飛鳥に注いでいた。
「な、何ですか?」黒ずくめの女を見上げて、飛鳥は尋ねた。
黒ずくめの女は微動だにせず「少し、話を聞きたいの」と見下ろして言った。
「何の話、ですか?」
「あなた最近誰かに会った?」
「誰かって?」
「女の人」
「学校の先生も女の人ですし、よく行くコンビニの店長さんも女の人ですけど?」
「違う。知らない人。私以外で」
一瞬の間を、カラスが鳴きながら空を駆けて埋めた。
「女の人には、会ったよ? 長い黒髪の綺麗な女の人で、飴玉をくれて、少しお話をしただけだけど」
飛鳥は昨日出会った飴をくれた女の話をした。すると、黒ずくめの女は眼を見開いて言った。
「貰った飴玉は、食べたの?」
「はい。……?」飛鳥が疑問に思いながら答えると、女は空に目を向けた。夕焼けが赤く空を染めていた。
「あなた、今日はもう帰りなさい」
「え? 何でそんな事言われなきゃいけないんですか?」
飛鳥は見知らぬ女に尊と似た事を言われ、今朝の口喧嘩を思い出し、思わず言い返した。
「……連れてかれるわよ? 二度と帰れない所に」
「何? 急に、怖い事言わないで」
「あなた、お母さんは?」
「……教えない! もう放っといて! ブザーを鳴らすよ!?」
飛鳥が首に下げたブザーの紐に手をかざすと、黒ずくめの女は何も言わずに立ち去った。
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