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公園の広場に面した道路沿いに車を停めると、尊は原っぱに向けて名前を呼んだ。
「飛鳥ーー!」
自身の声だけが響き、返ってきたのは風が草を切る音だけだった。
一瞬、冷ややかな風が尊の身体を通り過ぎた。
「女の子を探しているの?」背後で声が聞こえ、振り向くと黒ずくめの女が立っていた。肩には弦楽器のケースを背負っていた。
尊は一眼見て学校の通知にあった特徴と合致した女だと知ると、詰め寄った。
「飛鳥はどこだ!? 俺の娘だ! どこへ連れて行った?! 自分が何をしてるのか分かってるのか?! 犯罪だぞ!」
女は微動だにせず、尊の睨みつける目を見つめ返して言った。
「女の子は、母親と一緒にいる」
「……な、何を言ってるんだ?! ふざけてるのか!?」
黒ずくめの女の言葉に動揺した尊はスマートフォンを手にした。
「警察を呼ぶ。逃がさないぞ!」
「弥生さんの墓はどこ?」
女の口から妻の名前が出て困惑した尊はスマートフォンに触れる指を止めた。
「どうして……娘から名前を聞いたのか?」
「産後直後の失血性ショック死。娘さんを抱いたまま、旅立った」
弥生の死因は飛鳥にもまだ教えてはいなかった。自分のせいで母親が死んだと思って欲しくはなかったからだ。
誰にも話していない事を知る目の前の女に、尊は不可思議な感覚を抱いた。
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