草笛 碧

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草笛 碧

◇草笛 碧◇ あいつの事が気になりだしたのは、いつからだろう 高くも低くもない身長、小さな透き通るような声、何の取り柄もない奴 中性的な顔立ちで、重ための前髪 眠たそうで、かつ反抗的な目つき 目が悪いのかいつも眉間に皺が寄っている にこりともしない無表情で根暗なやつ あの反抗的な目を、涙でいっぱいにしながら、快感に溺れて逝く顔を妄想しだしたのはいつからだろうか あいつの淫らな姿を何回オカズにしたことだろう そして、 あいつ 立花 結の視線に気づいたのは いつのことだっただろうか 最初に違和感を感じたのは、暑い夏の放課後 部活の最中に、忘れ物に気づいて教室に取りに戻った時だ 中庭を挟んだ部活棟から、自分の教室が見えて、生徒が1人、いた あいつだ。立花だ 遠くからでも分かる、 こんな放課後に1人で、何をしているんだろうか。 ちょっとした好奇心 急いで教室まで向かって、教室の手前で息を殺す。 そして、後ろ側の扉からそっと中を覗き込んだ やっぱり立花だ。 よく見えない、もう少し… ああ なんだ、その顔は なんて表情だ いつもは無表情な顔が、リンゴ見たいに真っ赤に染まって、口は固く結ばれ、恍惚の表情。 その手には、タオルが1枚 見覚えのあるタオル そうだ。バスケ部のタオルだ 男子バスケ部のタオル どうして立花がそのタオルを持っていて、とろけそうな顔でタオルの匂いをいっぱいに吸い込んで、今にもオナニーを始めそうな表情をしているのか いや、違うそうじゃない 気になるのはそこではない あのタオルは誰のものだ 俺のクラスにバスケ部は3人 学年には8人 どいつだ、どいつのタオルだ おれの、俺の立花に 俺より先にあんな表情をさせるやつは誰だ 沸々と熱い何かが、腹の底から湧き上がってきて、胸をいっぱいにする。 今すぐこの扉を開けて、驚愕する立花を押し倒して、めちゃくちゃに犯してやりたい 立花の好きな奴のタオルの匂いを嗅がせながら、そのタオルと顔目掛けて射精してやりたい 湧き上がる欲望をグッと堪えて立花を見る。 やってしまえ。 そんな気持ち良さそうな顔をしているんだ。するんだろう?今から1人でオナるんだろう? 見といてやる。いや、録っといてやる そうだ。そうしよう。録ろう そして脅すのも悪くない 自分のオナニーの動画を見せながら、精子が枯れ尽くすまで、俺の前でオナニーをさせよう。そうだそれだ。 体操着に着替えていたが、ケータイをポケットに入れてきていてよかった。 立花から目を離さずに、ズボンのポケットからケータイを取り出した時だった。 カサッと、袋が擦れる嫌な音がした ああ、そうだ 今日の2限目は体育だったんだ その時にクラスの女子から飴を貰ったんだった 視線を立花からズボンのポケットに移せば、ポケットとからこぼれ落ちていく飴玉。 時が止まった気がした 重力に逆らうことなく落ちていった飴玉は、コツン、と音を立てて床に着地 それからは、もう早かった 立花が音に気づいたかどうかの確認もしないまま、バスケで鍛えた切り返しで、Uターンして、全力疾走。 階段を駆け下りて、近くの男子トイレに飛び込んだ ああ、くそ 惜しかった もう少しで、あと少しで 決定的な弱味を握れたかもしれないというのに むかつく、ムカつくムカつく あいつが持っていたあのタオル いったい誰の物だったんだ 次の日、立花は休みだった その次の日も、その次の日も そして土日を挟んで月曜日 いた。立花だ いつも通り、根暗に教室の窓際の席で1人本を読んでいる。 いつもと変わらない あの時、立花は俺を見ていなかったんだ。見られていなかった いや別に、やましい事を考えてはいたが、していたわけではないので、見られていてもどうってことなかったのだが 「碧くん!おはよう!」 「サツキさん!おはよう」 いつもと変わらないクラスメイトとの挨拶 いつもと変わらない、取り留めもない話をクラスメイトとしながら、チラリ、と立花を見た。 今まではこんな事はしなかった わざと立花を視界の端にうつしたり、立花の後ろ姿を見たり 立花だけをしっかり見るといった行動はしてこなかった だが、今日からは違う 立花を見て、立花が見ている先を見たい そうすれば自ずと分かるはずだ。立花が持っていたタオルの相手が 1限目が始まるまで、何度か立花を見てみたが、立花はずっと本を読んでいて本から目を離す瞬間を見る事はできなかった。 なんでだ やっぱり違うクラスのバスケ部員なのだろうか?それか先輩方か 先輩となると確認するのは手こずる事になるな… そんなことを思いながら、1限目の数学は寝たフリをする事に決めた。 机に腕を置いて、顔埋め、目を閉じたふり。薄眼だ! できる限り瞬きを減らして、立花をずっと見つめる。 ほっそい指で、サラサラとノートにペンを走らせる立花を見続けて、授業の半分が終わった。 立花の視線はずっと前を向いたまま やっぱり違うクラスか…先輩か、と思い諦めて寝てしまおうかと目を閉じかけた時だった 立花が、こっちを見た 見ている。見ている ずっと、しっかり見ている 間違いなく俺を まじか、 そうか!そうなんだな立花 そういう事だったんだな ああ、勿体無い なぜ俺はこの間 立花がタオルの匂いを嗅いでる時、教室に入らなかったんだ。 あの時入っていれば、めちゃくちゃにできたのに 立花が好きなやつは 俺だ 昨日はわざと、また教室に筆箱を忘れてみた 先日、わざと筆箱を忘れた時は、蛍光ペンが新しいものに変わっていた 今日はどうなっているのか、ワクワクしながら筆箱を開ける わかった。これだシャーペンだ 分かり易すぎるよ立花 ほんとお前はバカだ そうだ、今日はもっと違うものを置いておこう
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