立花 結

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立花 結

◇立花 結◇ はやく、はやく、はやく ああ、だめだ我慢できない 「立花、今日も鍵よろしくな!あと、その机のジュース捨てといてもらえる?」 「はい、先生」 プリントの束を持った先生が、ゆっくりと教室を後にした そして有難いことに、机の上の紙パックに入ったジュースの廃棄係に任命していただいた。 そう。 碧くんの机だ 紙パックから伸びる細いストロー つい、さっきまであのストローを碧くんが… 背筋がゾクッとした 下半身に集まる熱 ゆっくり目を閉じて、本を閉じて、身体を冷ますように、深呼吸 いつものように、カバンに本をしまい、カーテンをしめた ゆっくりと碧くんの席に近づき、ジュースを手に取る 少し、少しだけ 誰も見ていない!!! ストローに口をつけて、残ったジュースを少し飲む。甘いミルクティーだ カバンからジッパー付きポリ袋を取り出すため、手に持ってたジュースを机に置こうとした時だった 「おっ、立花ー!おつかれー!」 ガラッと開いた教室の扉の先にいたのは、碧くん 部活に行ったはずの碧くんだ でもなぜか、碧くんは体操着ではなく、制服姿 見られてないよね? うん、見られてないはず 優しい碧くん。 あまり仲良しじゃない俺なんかにも、挨拶してくれるなんて 「お、おつかれさまっ」 「あ、それ!俺のミルクティー?」 それ、と碧くんが指差した先には、俺の手におさまる紙パック そうだ碧くんのミルクティーだ 俺がついさっき、こっそり口をつけたミルクティー 「忘れてたんだよねー!」 「そ、そうなんだ!!あの、これ、先生がさっき捨てといてって…」 そうだ、そうだ 落ち着け自分 俺が碧くんのミルクティーを手にしてる理由は、変態的行動からではなくて、悪魔で、先生に捨てるように頼まれたからであって、そう、やましいことは何もない 「まじで?まあ、忘れた俺が悪いかあ。捨てられる前でよかった」 困ったように笑いながら頭をかく碧くんは、本当にカッコよくて そんな碧くんといま、まさに今話しているのは紛れもなく、この俺で 幸せすぎて、幸せすぎて ああ、顔に出てないかな 口元緩んでないかな 大丈夫かな ゆっくりと、長い足であっという間に俺の前に来た碧くん 「ど、どうぞ…?」 どうぞでいいのか? そもそも碧くんの所有物であるのだから、この渡し方で問題ないのか? ちょっと勿体無い気がするが、いや、とても勿体無い。こんなチャンスは2度とない。 欲しかったな。碧くんのストロー 名残惜しく思いながらも、手にしていたミルクティーを碧くんへと渡した。 サンキュ、と小さく笑った碧くんの手にミルクティーがおさまる あれ、ちょっと待てよ 碧くんが飲んでいたミルクティーを 隠れて俺が勝手に飲んで 勝手に間接キスを楽しんで でも、でも、 そのミルクティーは今、また 碧くんの手元にあって 碧くんは俺が勝手に飲んだとも知らずに いま、まさに、一口 少し大きな口で 薄い、唇で、柔らかい舌で 俺が触れたストローに触れて… 「ん?立花?どうかした?」 「…っえ?!な、なにも!」 「そう?今俺のことジッと見てたけど?」 だめだ、だめだ、あぶない 落ち着け俺 一度、深呼吸 ああ、碧くんがミルクティーを飲んでいる。さっきストローに触れた、俺の唾液が、今、まさに碧くんの中で碧くんと混ざり合っているんだ 今日はなんていい日なんだ ストローを手に入れれなかったのは、とても残念だが、それよりも素敵な事が目の前で起こっている ずっと碧くんを見ていてよかった 諦めずにいてよかった 「あのっ、その 制服だから、部活どうしたんだろうって思って…」 「それでその熱い視線?立花へんなやつ」 碧くんが笑ってる 俺だけに笑ってる 「あっ、ていうか、もしかしてもう鍵閉めるところだった?」 「う、うん。そうだよ。でも、まだ大丈夫だよ!時間…あるし」 いま、時が止まればいいのに まだ、帰らないでほしい もう少し話していたい だって、碧くんとまともに話せたのは、これで2度目 1度目は碧くんと、碧くんのお友達もいたから、碧くんと2人っきりで話せたのはこれが初めてだ。 「そっかー、立花時間あるんだ?」 なあ、じゃあ俺ん家こない? 時間が止まった気がした。
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