君と一緒にバジルパスタ

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 台所のコンロに火をつける。ソーセージと茄子の炒めもの、コンソメの野菜スープ、それとバジルパスタを作ろうとして、俺は手を止めた。    居間をみやると、同居人のタカがまだテレワーク中だった。机の前でPCを開きヘッドホンをして、会社の人と話している声が聞こえてくる。  「その件はまだ◯◯さんの連絡待ちで…はい…ええ…」  タカは東京の会社に勤める会社員だ。コロナウィルス流行の最中で、出社はなくなり、毎日家でテレワークになった。  同棲している求職中の俺は、必然的に毎日タカの食事を作っている。    今はまだ昼食の仕上げは出来ない。彼の仕事の会話が終わるまでは駄目だ。俺はパスタを皿の上に乗せた。ステンレス台の上の白い皿だ。茹でるのは彼の仕事の終了を待つしかない。  何だか胸の中がしん、としたように疲れる。俺の働いていた飲食店は先月つぶれた。もともと危なかった経営が、都内の緊急事態宣言の影響を受けてさらに客が減少し、ついに閉店になってしまった。  店に雇われていた俺は主に厨房で働いていた。無力感や脱力感はある。次の勤め先を探さねばならないのに、気持ちも体も重い。    「イズミ、終わったよ、食事にしよう。俺もう腹ペコ」  仕事が一段落したタカが、椅子で背伸びをしながら居間から声をかけてきた。空腹だったのは俺も同じだ。タカの言葉にうなずいて、コンロに向かう。やっとこれで昼食を食べられる。 「10分位で出来るよ」    タカには台所からそう返して、パスタを茹で始める。タイマーを9分にセットして、すでに作ってあるソーセージと茄子の炒めものの乗った鉄フライパン、小鍋の中の野菜スープにも、温め直しの火を入れる。    ふと思う。俺は次にどこで働けばいいんだろう。コロナ禍の今、自分を厨房で雇ってくれるところなんてあるんだろうか。調理学校を出てからずっと働いていたせいか、仕事がない状況は落ち着かない。少しずつ追いつめられてゆくような焦燥感を感じる。  いやいや、暗い考えになっちゃだめだ。ちゃんと探せばまた見つかるさ。  ふっと息吐いて、気合を入れ直す。  スープは次第に温かくなってきた。タイマーが鳴り、パスタも茹で上がってきた。俺はバジルとスパイスを混ぜたソースを混ぜて、熱々のパスタにからめた。
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