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ぶっきらぼうに話す哲司だが、言いたい気持ちは優衣にも伝わって来た。
きっとこの人は寂しかったんだ…。
お母さんからもお父さんからも、愛されていないと思っていたから…。
自分の事も見れないくらい寂しかったんだ…。
優衣はそう思った。
「…あのさ…今更いう事じゃないけど…」
頬を真っ赤にして俯いた哲司は、何か言いたいのに口の中でごにょごにょとこもってしまい上手く言葉にできなかった。
優衣は嬉しくて思いが込みあがってきた…。
気づけばスッと頬に涙が伝っていた。
「あ…ご、ごめん…。その…」
優衣の涙を見ると、哲司は慌ててしまったようだ。
「…ごめんなさい…。嬉しくて…。やっと、話をすることが出来たので…」
「…やっとって…もしかして、待っていたのか? 俺が話しかけるのを」
「はい…。いつか、きっと話しかけてくれると信じて待っていました。…私、年上だし…もしかして、貴方の好みじゃないのかもしれないと思って…。でも、一緒に居ればいつかは話しかけてくれると信じていました…」
ばかか…お前は…。
そう思った哲司は、そっと優衣を抱きしめた。
ふわりと抱きしめてきた哲司は、ちょっと不器用な抱きしめ方だったが、優衣にとってはとても心地よかった。
ギュッと抱きしめられると、トクン…トクン…と、哲司の鼓動が優衣に伝わってきた。
哲司にも優衣の鼓動が伝わっていた…。
なんて優しい鼓動なんだろう?
結花と比べてはいけないが、結花より抱き心地がいい…伝わってくる鼓動も優しい…。
なんで俺、こんな事に気づかなかったのだろう…。
優衣を抱きしめながら、哲司は心から幸せな気落ちを感じた。
「優衣…俺を赦してくれるか? 」
そっと体を離して優衣を見詰めた哲司…。
「私、何も怒っていませんよ…」
「…じゃあ…お前の事、好きになってもいいのか? 俺が…」
一瞬ドキッとした顔をした優衣だが…。
「嬉しいです…好きになってもらえると。…私も、好きになっていいのでしょうか? 」
恥ずかしそうに頬を赤くしてそう言った優衣。
そんな優衣が可愛くて、哲司も赤くなった。
「そんな事聞くな。いいに決まっているだろう? 」
潤んだ目で見つめ合う哲司と優衣。
シワだらけの優衣…。
今まで見ているとゲッと思ったが、今はそうは思わない。
愛しくて…見ているだけで癒される…。
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