好きなんだ…

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好きなんだ…

 ゆっくりと食べている優衣を見ながら、哲司は久しぶりに穏やかな気持ちを感じていた。 「ご馳走様でした」  食べを終わると、丁寧に手を合わせてた優衣。 「お料理、上手なんですね。卵焼きも、とっても美味しかったです」 「…昔はよく作っていた。…おふくろは、夜家にいないときも多かったし…家政婦はいたが、何となく自分で作ってみたくて…」 「そうですか…。私もよく、母の手伝いをしていました。…私の母も忙しい人で、あまり家でご飯を作る事が少なかったのですが。休みの日には、よく一緒に作っていました」 「そっか。…」  なんて穏やかな一時なんだろう。  結婚してから、優衣とこんな風に話した事なんてなかった。  お互いに昔の話なんて必要ないと思っていた。  無関心で一緒に食事をしたことなんてなかった…。 「今日は、ゆっくり休んでいていい。親父の事は、俺がやるから」 「いえ。もう大丈夫ですから、後は私がやります」 「病気の時くらい、人に頼れ。俺にも、親父の介護をする義務はあるんだ」 「でも…お仕事でお疲れでしょうから…」 「いいって言ってるだろ。本来、親父の介護は結花がするべきなんだから」  結花の名前を出されると、優衣の表情が曇った。  そんな優衣を見ると、哲司は罪悪感が込みあがってきた。 「…悪かったな。3年もほっといて…」  え?   優衣はちょっと耳を疑った。  照れくさそうにシレっと視線を反らしている哲司だが、とても罪悪感を感じている目をしていた。  こんな哲司を見るのは初めてで…。 「俺は…人を好きな気持ちや愛する気持ちが、分からない…。親父ともずっと距離置いて来た…おふくろも、家にない事が多くて一緒に寝てくれる事もなかった…。だから、今まで本気で人を好きになった事はなかった。…あいてにされるままで、流されていればいいと思っていたのだが…」  ちょっと恥ずかしそうに、哲司は優衣を見つめた。  優衣は驚いた目をして哲司を見ていた。 「お前が倒れた時、心臓が止まりそうだった。医師として、人の死には直面してきて、誰かが倒れる事なんて見慣れているのだが…。目の前で、お前が倒れた時、正直怖かった…。このまま居なくなったらと思うと、怖くて必死に呼びかけた」  
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