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ニュースを見ていた哲司は納得していた。
孝治の部屋で見た書類にも結花が後妻業ではないかと書いてあった。
そしてカフェで会っていたあの男性。
銀行頭取であれば、納得できる身なりだった。
ここのこところ、結花が出かける事が多く外泊も多く帰ってこなくなったのは、別の金持ちに目をつけていた事だったのだと納得できた。
最近、求めて来なくなったのも他に目が行っていたからだったのだろう。
納得する反面、哲司はホッとしていて。
結花と一緒に手を組んで、この家の財産をすべて奪って親父を捨ててやろうと考えていた自分はもういない。
今いるのは…優衣を愛し始めた自分だけだから…。
「哲司」
声がして振り向くと孝治が夏樹に連れられてリビングにやって来た。
何となく重たいような空気を感じた哲司は、何かあると感じた。
「哲司、ニュースを見たのか? 」
「あ、ああ…」
「そうか。すまないが、私はもうとっくに知っていた。結花が、後妻業である事をな」
知っていた…。
そう言えば、あの書類は親父の部屋にあった。
いつから置いてあったのは分からないが、もし、起きている時から置いてあったなら見ていた当然か…。
「哲司、私は結花とは籍を入れていない」
「え? 」
「結花はこの家の、ただの居候だ。入籍したふりをしていただけであり。婚姻届けは、未だに提出されていない」
入籍していない。
つまり、結花はこの家の財産は1円も受け取れないという事か。
入籍していないと聞いて、哲司はホッとした。
逮捕された結花が藤木の苗字だったのは、入籍していなかったからだったのだ。
「そうだったのか。なんか、ちょっと安心した」
「安心してくれるのか? 」
「なんでそんな事言うんだ? 」
「いや、お前は結花と親しそうだったからな」
図星を指されて哲司は何も言えなくなり、そっと視線を反らした。
「私は気づいていたぞ。お前が結花と親密な関係である事を」
「確かにその通りだったから、言い訳はしないよ。…」
素直に認めた哲司に、孝治は意外そうな目を向けた。
「悪いのは全部俺だから。好きにしてくれて、構わない」
孝治は哲司に近づいて行った。
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