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「哲司。…お前の本当の気持ちを、聞かせてほしい」
「本当の気持ち? 」
「優衣に対しての気持ちだ」
優衣に対して。
そう言われると、哲司は胸が苦しくなった。
優衣の事が本気で好きなのだと気づいたのは、最近ことである。
でも本当は、お見合いをした日からずっと好きだったのだと今は思う。
孝治の介護でシワだらけの老け顔になってゆく優衣を見て「ボロ雑巾」と言って結花と関係を持っていた。
せっかく優衣が作ってくれた朝ごはんも、夜ご飯も食べないで、結花と外食ばかりしていた。
一緒の部屋に寝ていても見向きもしないで、ずっと放置していた。
優衣が倒れた時、心臓が止まりそうになった。
その時から分からな気持ちが膨らんでゆく事に気づいた。
そして…
優衣と繋がって初めて本当の自分の気持ちに気づいた。
優衣を…愛しているのだと…。
その気持ちを今更言ってもいいのだろうか?
3年もの間放置していたのに…。
孝治は哲司の答えをじっと待っていた。
「…俺は…優衣を、愛しているよ。…ずっと、気づかないふりをしていたから、今更言っても信じてもらえないのは承知している。…」
グッと胸に何かが込みあがってくるをの感じた哲司。
目頭が熱くなるのを感じ、ここで泣くわけにはいかないと自分に言い聞かせ涙をこらえた。
「その言葉を聞いて安心した」
今までにない、優しい声の孝治に哲司は驚いた。
「お前が優衣を愛していないなら、この家の財産は一切渡さないつもりだった。ここに居る夏樹君は、私の正当な血を引く息子だ」
え?
驚いた目で夏樹を見た哲司。
夏樹はそっと視線を落として何も言わなかった。
「私は政略結婚をさせられた。だが、私には心から愛した人がいた。同じ医師であった女性だった。最後に一度だけ関係を持った時に、夏樹君が授かったようだ。その人は、15年前に病気で亡くなってしまったが。夏樹君が私の実の息子である事を、ちゃんと証明して残しておいてくれた。特に何をしてほしいとは、望んでいなかった。夏樹君が望むようにしてほしいとだけ、手紙に書いてあったよ」
「そうだったんだ…」
哲司は夏樹に初めて会った時の事を思い出した。
開業してもう一人医師を募集した時、夏樹が面接にやって来た時。
とても初々しく優しい顔立ちの向こうに、どことなく孝治と同じ雰囲気を感じた。
いつも穏やかで余裕がある夏樹を、自分とは対照的だと哲司は見ていた。
孝治の実の子供だと言われれば納得はできる。
よく見えると目元がそっくりで、目の奥の厳しさは孝治と同じである。
納得できた哲司はフッと笑った。
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