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「俺は…優衣の事を愛してしまった。…確かに初めは、決められた結婚だからと思って従ったのが本音だ。結花と手を組んで、この家の財産をすべて奪ってしまおうと企んでいた事も事実だ。…何も言い訳しないし、逃げる気もない。ただ今言えるのは、俺が今更ながら優衣を愛してしまったという事だけだ」
何も隠すことなく、哲司はありのままの気持ちをうち開けた。
本当はお見合いした時から、ずっと心の奥底では優衣を好きになっていた事に気づくまで、3年もかかっていたのは事実。
シワだらけのボロ雑巾と言って、小ばかにして見向きもしなかったが。
優衣のけなげな姿を目の当たりにして、美味しい料理を食べるようになってから本当の気持ちに気づくなんて、遅すぎると言われても仕方ない事だ。
「良かった。哲司先生が、優衣さんを本気で愛してくれるようになって」
真面目な顔をしていた夏樹が、いつものようにニコっと笑った。
「優衣さんを見ていたら、哲司先生の事すごく愛しているんだなぁって思っていましたから」
「優衣が? まさか、あんなにバカにされて放置されていたのに…」
「愛がなければ、お父さんの介護をずっと3年間も続けてくれないと思いますよ。どんな理由があったとしても、優衣さんはきっと哲司先生の事を愛していた思います」
愛している…。
そう言われると、哲司は色々と思い当たる節があった。
優衣は全く見向きもしない哲司に、一度も文句を言ったことはない。
ご飯もきちんと作ってくれていて、食べずに捨てても何もわなかった。
陰で酷い事を言っている言葉も、きっと耳にしてたと思うが何も表情に出すことなく変わらずに接してくれていた。
これも優衣の愛だったのだろうか?
そう思と、哲司は胸が苦しくなった。
「哲司先生、安心して下さい。僕が、孝治さんの実の子供でもこの家をもらう気はありませんし。病院も、今のままで僕は哲司先生に雇われたままで構いません。僕、自分の事を不幸だなんて思ったことは一度もありません。母はとても優秀で優しかったので。孝治さんとも、時々お会いしていたので。哲司先生と初めてお会いした時も、孝治さんと似ている感じだと思っていました。なので僕は、これからも今までと変わらずでいます」
「…有難う。…」
夏樹の気持ちが知れたことで、哲司はホッとした。
だが…
そう言えば朝から優衣の姿を見ていない事に気づいた哲司。
「そう言えば、優衣はどこにいるんだ? 」
哲司が尋ねると、孝治は1通の手紙を哲司に差し出した。
「これは優衣さんからの手紙だ。お前に渡してほしいと言われ、預かっていた」
「優衣から? 」
手紙を受け取り、哲司は中を確認した。
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