1.

1/1
前へ
/3ページ
次へ

1.

「この()たち、やっぱ(とうと)いわぁ」  俺の心と瞳はMyTube(マイ・チューブ)の動画に釘付けになっていた。  映っているのは落石坂(RSS)48のPV(プロモーション・ビデオ)。それも今日発表された新曲の為に作られたプレミアムお披露目映像だ。  特にセンターとその両脇にいる2人の女の子が、推し中の推し。3人とも好き過ぎて、誰かを選べと言われても答えられない。  ベッドのヘッドボードに背を預けながら、俺は手だけでボックスティッシュを探し当てた。  興奮した俺には、絶対にこいつが必要だった。  いや、違う。  待ってくれ。  ほんと頼むから。  変な想像をしないで欲しい。  俺は特殊な人間なんだ。本当に。  だからその目は止めてくれってば。嘘じゃない。  歌でも、小説でも、映画でも。  俺はその存在が『尊い』と感じると、鼻から血が出るんだ。  いわゆる鼻血ってやつだ。それも感動の大きさに比例して出血量が増える。  この前もデパ地下でうっかり餃子を試食したら、あまりの旨さに床が血まみれになった(販売応援の店員がパニクったのは言うまでもない)。  普段から気をつけるようにしている。だが大ファンである落石坂のPVとなったら絶対にやばい。耐えられない自信がある。  尊さは血しぶきと化して吹き出し、自分の部屋を血まみれにする自信がある。  はたから見たらただの変態だが、この熱い液体は俺にとって、尊いものに捧げる聖なる供物なのだ。  座ってくれ。頼む。もう少しだけ付き合ってくれ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加