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2.
「ママー、お兄ちゃんの部屋がうるさーい! 何か女の人の声がするー!!」
不肖な妹よ。俺の崇高な時間を邪魔するんじゃない!
「マサフミ、レンタル屋で変なビデオ借りてくるんじゃないの! ミカの教育に悪いでしょ!」
昭和生まれの母よ。これはスマホだし観ているのはサブスクだ。それと変な想像は止めてくれ。
いかん! 映像に集中しなくては。
俺の焦りを洗い流すように、アイドルたちは画面せましとダンスを披露してくれる。
PVが中盤を迎えると、メンバーのズームショットが中心になってくる。いわゆるファンサービスというやつだ。
センターの『石灰岩ライム』。ショートカットの健康的な笑顔が万人を魅了する。
右の鼻から大量の鼻血が流れ出た。俺はティッシュを棒状にして押し込んだ。
センター右をつとめる『火山岩シリカ』。切れ長の特徴的な目に射止められるファンは多い。
あふれる想いはひとつの穴では収まらない。左鼻からも熱い血しぶきがほとばしる。
左でジャンプする子は『変成岩シスト』。天然さではお馬鹿タレントを超える素質を持つくせに、ときおり見せる知性とのギャップがたまらない。
凄すぎる。このPVは伝説になるだろう。俺の感動はもう薄い鼻紙だけでは押さえきれない。
枕が、シーツが、毛布が、俺の寝場所が真っ赤に染まっていく。
「ママー! お兄ちゃんの部屋から、変な臭いがするんだけど! なんか生臭いっていうか、鉄臭いっていうか」
母親が血相を変え、俺の部屋のドアを叩いてくる。
「ちょっと、マサフミ! 開けなさい! あんた真っ昼間から何してるの!」
昭和の母よ。なぜに我が息子を信じられぬのか。
彼女いない歴25年、ニート歴3年の長男だからといって、昼間からそんな元気ないわ。
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