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「あー!」
ふと、小さな子供の大きな驚き声が聞こえる。同時に、柔らかいボールが私のすぐ隣まで転がってきた。リンと音が微かに鳴る。鈴か入っているのか、この黄色いボールは。
それから大分遅れて、懸命に走る幼女がやってきた。
私はボールを手渡してやると、その子は笑顔でありがとうと笑う。白いスカートは泥だらけ、草だらけで汚れている。
…そういえば、私が向かしそうやって服を汚したとき、母は低い声で私にこう言った。
「どこで汚してきたのよ?」
私は怖くて、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。
しかし母は謝罪はいいから、と何度も汚してきた場所を問い詰めた。結局その時の私は泣いて、母に呆れられため息をつかれたんだっけな。それ以来、積極的に遊びに行くのはやめた。
と、そんなことを瞬時に思い出すと、私はついその子に聞いてしまった。
「洋服…汚れてるけど、怒られないの?」
「ふぇ?」
「ほら、そこ…」
私が指差したスカートはもう白みがない。洗濯して、落ちると良いんだけどな。
「うーん。わかんない!」
茶髪の子供は無邪気に笑うと、くるりと回る。
「でもねえ、花桜ね、いっぱいお外であそびなさいっていわれてるから、だいじょーぶだよ!」
「でも、何か言われたり…」
「うーん、おかあさんといっしょにあそんでるけど、おこられてないよ」
ほら、と指差す先で幼女の母親がお辞儀する。
ミルクティーのような茶色の瞳の子は、大きく手を振って去っていった。きっとあの子は怒られない。汚しちゃったね、それだけで終わるものなのだろう。ずるいな。
私はその後ろ姿を早くに視界から外し、立ち上がろうとする。私とは違う、彼女の事は考えたくなかった。母親が違っていれば良かったのに。そう思うのにも疲れたからだ。
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