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「元勇者よ。名誉を回復したければ、第四皇子の世話係としての職務を全うして見せよ」
元勇者だと? 聖剣を抜いたのは俺だ。魔王を倒したのも俺だ。なぜ俺が「元勇者」と呼ばれなければならないんだ?
魔王討伐が終わりお払い箱というのなら話は簡単だが、目の前に勇者と崇められるヤツがいることが理解できない。
勇者100億$、魔導士50億$、聖職者40億$、元勇者1000$。
報酬の額を聞いて気がおかしくなりそうなのを食い止めるほど、衝撃的な言葉が頭の中で反芻する。
「よいな、元勇者。詳細は追って伝える。皆の者、大儀であった。今宵は宴じゃ、存分に楽しむがよいぞ」
皇帝が席を外すが否や、並のように押し寄せる貴族ども。大半が勇者を取り囲み、次は自分が話す番だと必死に場所取りをしている。
そのほかにも、魔導士には魔塔の面々が、聖職者には教会関係者がお行儀よく列をなして順番に挨拶をしていく。
一方元勇者の俺には、誰一人よって来やしない。チラチラとゴミを見るような視線を送ってくるだけだ。こんな状況でどう楽しめと言うんだか。
「ここにいても時間の無駄だな」
有難くも下座に立たされていた俺は、出口の近くにいる。貴族たちは勇者を囲むために上座に出払っているから、出口までは一直線だ。
賑わいに背を向け出口へと足を進める。途中肩越しに振り返っても、俺を引き留める者はいない。
歴代の勇者で、魔王討伐を果たした末路がこんなにも惨めな勇者がいるんだろうか。
「ふっ、俺は「元」勇者だったな」
再び宴を背にし、俺は静かに城から去った。
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