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康平のマンションに向かうタクシーの中、翔太は一言も話さなかった。沈んだ表情のまま、ずっと俯いている。
涼子も何と声をかけたら良いのか迷っていて、車内は重苦しい空気のままマンションに到着した。
「今、お茶でも淹れるね…」
「お茶なんか要らないわよ。ほら、座りなさい」
涼子は翔太の肩を押して、ソファに座らせ、自分もその隣に座った。
「で、アイツは貴方に何をしたの?」
「腕を掴んできて…会いたかったって。奥さんが、あの病院に入院中なんだって…。まだ、僕のことが好きだから付き合おうって…」
「頭おかしいんじゃないの?あんなことがあったのに、よくもそんなことを…」
康平の笑顔はお日様みたいに温かくて、一緒に居ると心までぽかぽか温かくなるのに…。
久しぶりの鈴木の笑顔は、自分勝手で気分の悪くなるものだった。
あの頃…先生のことが好きだと思っていた頃、あの笑顔が好きだったなんて信じられない。
「父さんにも相談するけど、アイツを訴えましょう。前回もそうするべきだったのよ」
「でも……もう、関わりたくない。訴えたりしたら、顔を合わす機会があるんじゃないの?」
「そうならないよう手は打つわ。翔太は暫く一人で行動しないこと。アイツにいつまた出くわすか分からないからね」
「………うん」
病院の付き添いなんて要らないと思ってたけれど、姉さんが居てくれて良かった。
一人だったらパニックになるだけで、きっと冷静に対応出来なかった…。
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