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姉さんが出て行ってからも、僕はカフェで一人ゆっくり珈琲を飲んでいた。
店内の女子高生達が、チラチラと僕のことを見ているのは分かっていたが、気付かない振りをして店のガラスに映る自分を眺める。
ガラスには、一人の男子高校生が映っている。小柄で甘い顔立ちの高校生……。
僕はふっと笑ってしまった。
姉の現在抱えている、いじめ裁判の同級生からの証言を取るために、僕は高校生の振りをして証拠を掴みに派遣されたのだ。
本当の僕は、もう成人しているし、そもそも高校なんて中退している。
それでも、童顔のせいで制服を着ればまだ高校生に見えるのだ。
僕はふと、今日はこのまま高校生として過ごしてみようかと思い付いた。
自分の高校時代は全く楽しくなかったが、あの頃のリベンジで楽しんでみたい……久しぶりに着た制服が、僕をそんな気分にさせてくれていた。
そうと決まれば……。
普通の高校生みたいに、街をブラブラしたり映画を観たりしてみよう。
幸い、姉さんに貰った軍資金もあることだし。
僕は残った珈琲を飲み終えると、暫しの高校生気分を味わうためカフェを後にした。
本屋で本を選んだり、CDショップで好きなアーティストのCDを視聴したり、その辺の高校生と全く同じように過ごす時間は楽しかったが、少しだけ虚しかった。
所詮偽りの時間だ。
シンデレラみたいに、バイトの時間が来たら高校生の振りもお終い。いつも通りの、冴えない日常が戻って来るのだから。
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