疫病神の花嫁

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疫病神の花嫁

「とはいえまあ、疫病神っぽいよね。疫病神の花嫁」 「それだと、(つかさ)君が疫病神みたいじゃないよ。しかも、わたしがなんだか生贄の立場みたいじゃない」 「まあ、ドレスショップにトラブルが起きないことを祈りなよ。優柔不断なあんたが、やっとのことでドレス決めたんだしさ」  今、二人がいるのは三十階、このビルの最上階である。  レンタルするドレスも無事決まり(司君こと旦那さんはドレスに合うなら、自分の着るものはなんでもいいよ、ということだったので、サイズ感だけサロンに伝えて、当日タキシードを数種類用意してもらうことになった。こういうパターンは割と多いらしい)、撮影の日取りや手順の確認も終わったので、気分よく、じゃあちょっとお茶でもしていく? と下りのエレベーターを待つこと十分。  いまだ一台も、最上階のひとつ下であるこのフロアまでエレベーターが登ってこない。  今日は4階フロアまでは設置されているエスカレーターにトラブルが発生したとかで、全館移動はエレベーターか階段でしかできなくなっており、どうやら下の階でいつもの何倍もの人間を乗せたり降ろしたりしているようではあるのだが。  それにしても、理英が押した目の前にあるエレベーターの昇降スイッチは赤く灯っており、「この階に乗りたい人間がいますよ」というコールは送れているので、この状況はたしかに不自然ではある。 「まさか、このボタンも壊れてるのかなあ……」 「あんたの悪運はコンピュータのプログラムをも捻じ曲げるってことかねえ」  このビルのメインテナントが集中しているのは四階までで、そこから上のフロアの移動手段はエレベーターか階段しかない。  そして、これだけ長い時間エレベーターが止まらないにもかかわらず、二人の他に困っている人間が、このホールには誰もいない。つまりこの十分、誰もエレベーターを使用する人間がいなかったということである。これも不自然といえば不自然な気はするのだが、事実なので仕方がない。
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