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パルス
何かが爆発したような、破裂したような大きな音とともに、ふたりの立っていた床が一度大きく揺れ、ホールの窓ガラスにびりっという振動が走った。
「え、あ、地震⁈」
細いヒールの靴を履いた理英がたたらを踏む。衝撃に負けずなんとかその場に踏みとどまったドクターマーチン履きのわたしが、慌ててその体を支える。
「ありがとう。……え、何?」
一拍遅れて、かすかに甲高い悲鳴のような声が外から聞こえた。
「ここまで聞こえる悲鳴ってやばくない?」
エレベーターホールの通りに面した側は全面ガラス張りになっている。行き交う車と、着飾った人々が規則正しく交差する大きな道は、今の爆発音による衝撃で不規則に乱れている。
心拍数の上昇、呼吸の乱れ。それがそのまま人並みの動きに現れる。
――所詮、人なんて、この世界の脈動の顕れにすぎない。
――単なるパルスの信号にすぎない。
わかっている。だから。この胸の痛みなど、なんの意味も持たない。
そんなわたしの耳元で、ため息混じりの声がする。
《あーあ、今回は流石に結構死んだんじゃない、人間》
エレベーターホールから見下ろした窓の向こうの景色は一変していた。
横断歩道を渡った先、交番があったはずの十字路の一角が、見事に吹き飛ばされている。そして、わたしたちがこの後向かおうとしていた喫茶店も、その近くにあった。
「ねえ美加……。これ、待つことなくエレベーターに乗って降りてたら、間違いなく巻き込まれてたよね……」
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