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心弱いあなたを
理英が目を見開いて、口元を押さえているのを横目でチラリと見ながら。
《……ねえ、いつまで疫病神を守るの?》
《罪悪感とか感じないの?》
《あと何人見殺しにしたら気がすむの?》
〈うるさいな。わたしの正気に訴えかけるようなこと言っても、もう無駄だから〉
《それが自分の愛なんです、とかいうやつか。そういうの、その地区の人間の、最近の言葉で表現すると「ヤンデレ」って言うらしいよ》
〈ふーん。流行りに乗っかってていいじゃない〉
――わたしの愛を、なめてもらっては困る。
わたしは、ぺろりと下唇を舐める。緊張で乾いたそこに、じわりと唾液が染み込むのを感じる。
「大丈夫? 理英……?」
隣で、眼前に広がる惨状を見て青ざめる親友の、小さく震えている細い左腕に、そっと右手を添えた。
あの頃は、こうしてあなたに触れることが叶うなんて思ってもみなかった。
こうやって実際に触れることのできる体を持ったことへの代償が、繰り返される爆発事故であったとしても。
「疫病神としての記憶」をなくしてしまったあなたを、人に厄災をもたらす存在であることから勝手に逃げ出し、人間のふりをしてこの世界で生きることにした、心弱くとても愛しいあなたを、
理英、という名の人間の皮を被ったあなたを。
眷属として、わたしは。
悪魔という名のわたしは。
いつまでも守り続ける。
《無駄に強い眷属って、本当に迷惑よねえ》
呆れたような嘆くような声とともに、天使のため息が聞こえた。
【fin.】
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