第一話 罪紋島

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第一話 罪紋島

 海原にそびえる島は、禍々しい瘴気に包まれて見えた。 「あの島で十万人の死刑囚が暮らしているのかよ、おっかねえ!」  本城玄太が、脅えたように呟く。  連絡船の甲板に吹きすさぶ夏風が、ちゃらっぽいブラウンの髪を激しく揺らしている。  玄太は子どもの頃から怖がりだった。二十歳を迎えてもそれが直っていないことが今、伏見谷義月の目に微笑ましく映る。 「玄太は怖がりね、死刑囚さんだってきっと根はいい人たちばかりだわ」  祈里が弟の玄太におっとりとした笑みを向けた。  長身を包む純白のサマードレスが潮風に靡き、清楚な女性の魅力をますます引き立たせている。 「姉貴さあ、そんなお人好しでよく二十五年も生きてこられたな」  玄太が引きり笑いでツッコミを入れる。 「二十六年よ? こないだみんなで誕生会してくれたのに忘れちゃった?」  デリケートなお年頃だろうに、祈里はサバを読もうとしないともしない。このおおらかな母性に何度救われてきたことだろう。  彼女と過ごした長い時間が義月の頭によぎる。自分がいなくなった後も、劇団回天座を暖かに包み続けて欲しいと願った。 「義月もなんか言ってやってくれよ」
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