序章

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 顕暦八七四年、仲秋の月、二十五日――。  その日、全世界に向けて、アルディスの化神の一人である神徒レジーナの戦死が公表された。  それは世界的にみても重大なニュースであり、アルディストンはもちろんのこと、他国であるゼノビアやイーヴァインにも、瞬く間に情報が伝達されたらしい。  それくらい、化神の死というのは、非日常的な出来事なのだ。  人間というのは、心のどこかで、そういった事件を求めている節がある。  たとえば、貴族の人間に不祥事があった、だとか――。  アルディス軍の不手際で、何か国家的な問題が発覚した、とか――。  つまりそれらはすべて、アルディスという国を動かしている上層部――貴族が引き起こす不祥事でもある。  そう、特に知名度の高い、身分や位の高い人間に起こった悲劇こそ、一般の人々にとっては非日常的で、心踊るような楽しい話題となるらしい。  貴族として、そういった光景は、少なからず目にしてきたし、そうでなくとも、否応なしに察しがついてしまう、というケースも少なからずある――。  とにもかくにも、神徒レジーナの死によって、ゼノビア対アルディス、イーヴァインの連合軍で行われていた戦争は、六ヶ月間の休戦へと突入した。  これは三大国家によって定められた協定の一つ、『三国臨時不可侵条約』によるものだった。 『三大国家のいずれかの化神がその命を落とした場合、その公式的な発表日より六ヶ月間は、各国にいかなる理由があろうとも、その武力行使を禁ずる』。  原文がこの通りであるかはわからないけれど、概ねこういった内容がその協定の一文に示されているのだ。  この協定が交わされたのは、古くは顕歴七五五年だといわれている。今からもう、百年以上も前の話だ。  しかしながら、実際に書物にもそういった記載はあるので、きっと正しい情報なのだと思う。  こうして休戦が発動していることを鑑みても、協定が今も有効であることはたしかなのだ――。
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