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加齢による引退のわりには二十代前半という、早すぎる引退なのだ。
その理由は――腕の怪我。
それによって、魔法が使えなくなったというのが、引退の真実らしい。
ふと――。
本当に、ふと偶然だ。
ハンスは思い出したことがあった。以前から、ルークに訊いてみたいと思っていたのだが、そのいい機会がなく、先送りにし続けていた質問だった。
それはハンス自身の身体についてのことだ。正確にいうなら、ハンスが持つ不思議な特殊能力、魔法無力化について、だった。
「すみませんルーク指導監、少し話が変わりますが――」
そう前置きをして、ハンスは告げた。
「抗魔法実験体、という言葉、聞いたことがありますか?」
抗魔法実験体――ジャンノエルがハンスの能力を目撃して評した言葉だった。いまだにその真意は掴めていない。図書館の文献をソフィと探したこともあったが、それらしい記述を見つけることはできなかった。
ルークの表情は変わらなかった。しかしながら、じっと刺すような視線をハンスに送っていた。
「その言葉、どこで聞いたんだ?」
落ち着いた、ゆっくりと一言一句を確かめるような喋りで、ルークは訊いてくる。
「仲冬の月に出撃した、例のティンバリーブレの任務の際です。そのとき交戦したジャンノエルから……」
「裏切り者のジャンノエルか……」
そこには親しみすら感じられた。もしかすると、ジャンノエルがブレイバー時代には、指導監を勤めていたのかもしれない。
「抗魔法実験体という響きから推測すると、魔法に対する耐性を持った人間ということはわかりますが……」
問題は、実験体、という表現のほうだ。それではまるで、その抗魔法の効果を試すために生み出されたかのような、そういう解釈すらできる。
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