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メロンクリームソーダポップ
「……これからさ、ご飯食べに行くんだよね?」
喫茶店の一角。テーブルを挟んだ向かいの席でメロンクリームソーダのバニラアイスを長いスプーンでつつく近所の高校の制服を着た少年に、私は訊ねた。ラプサンスーチョンなんて煙たい香りを漂わせる物珍しい紅茶を好きで選んでいる渋い私より少年の方がよほどかわいらしくてうらやましい。
「何で『時間つぶしにお茶しよう』でメロンクリームソーダを食べてるの?」
「何でって言われても。好きだから?」
疑問符をつけて答えを返してきた少年は、まだ幼さの残る中性的な顔をほんの少し傾ける。緩めたネクタイをぶら下げ、一番上とそのすぐ下のボタンが外されたシャツの襟元から僅かに覗く鎖骨。捲り上げられた袖口から伸びる筋っぽい腕とスプーンを持つ骨張った手。それらが、目の前にいるメロンクリームソーダのやけに似合う少年が確かに男なのだと言うことを私に告げてくる。
「それってデザートじゃないの?」
すくったバニラアイスを口に運ぶ少年に質問を重ねる。すると少年は驚くようにパッと目を見開いた。
「え? 飲み物だよね?」
同じく「え?」っと驚く私に、少年は驚きから納得へと表情を変えて続ける。
「……あー、なるほどこれが飲み物かデザートか問題ってやつか。おねーさんはデザート派なんだ?」
少年の言葉に私も「あーなるほど」と思った。かの有名な『クリームソーダ問題』に、まさか自分が直面することになるとは。それにしても、こうして向かい合って飲み物かデザートかなんてくだらない話をしているなんて、まるで――。
「――まるで、恋人同士っぽくないですかね? こんなくだらない争いをしてるなんて」
頭の中を読まれているのではないかという少年の言葉にどきっとした。自分の頬に熱が集まるのを感じる。内心の動揺を隠すように、努めていつも通りに言葉を返す。
「あ、争ってはいないわ」
そんな私の言葉に、少年はにやにやしながらグラスに注がれた緑色の液体にささるストローを弄んでいる。少年がストローを動かすと、シュワッと泡が立ちのぼり液面で細かく爆ぜた。圧倒的年下に遊ばれていることが何とも悔しい。
「あ、当たった? ふふっ。ねぇ、おねーさん。そんなこと考えるくらいなら、諦めて早く僕を彼氏にしちゃえばいいのに。僕はおねーさんのこと、大好きなのになぁ~」
余裕な表情でからかってくる少年は、本来ならば関わることなんてなかっただろう存在。
なのに、なぜ。
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