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少年とこんな風に時間を過ごすのは、これが初めてではない。
なぜ私は毎度断りもせずに付き合ってしまうのか。なぜ振り回されることをよしとしてしまうのか。なぜ彼はそれほどまでにまっすぐ私へ気持ちをぶつけてくるのか。
次から次へと湧いてくる『なぜ』は、まるで少年の手にあるメロンソーダから溢れる泡のようだ。
「ねぇ、何で私なの?」
私はこれまでに何度少年へ向けたか知れない質問を繰り返す。
「何でって言われても、好きだから」
少年から帰って来るのはいつも通りのもう何度となく聞いた答え。
「そうなんだけど、そうじゃなくて。こうして会うようになる前はお店で何回か話をしたくらいで、特に関わりがあったわけじゃないでしょう? 歳だって、離れてるし」
メロンクリームソーダの時とは違う疑問符のつかないまっすぐな答えを聞いても、私の膨らんだ泡のような気持ちはすぐに弾けてしまって自信が持てない。
少年と出会ったのはこの喫茶店の向かいにある本屋。私は大学時代からそこで働く書店員、少年はまだ高校生でお店の客だ。最初、交わした言葉はほんの一言二言。本の内容とかおすすめとか、そんな話だったと思う。それくらいに関わりのないお客さんの一人だった。
それを変えたのは、ある日、いつものように書店を訪れた少年からの突然の告白。
――『僕はおねーさんが好き。好きです』
しかしそんなにまっすぐ気持ちをぶつけてもらえる理由が、私には分からなかった。
「レジ前の平積みコーナーにあるおすすめ本。あれ、おねーさんのチョイスだよね? 僕、それを毎回買ってたの、気づいてました?」
「……そう、だったの?」
知らなかった。確かにそれは私が選んでいるものだ。手に取ってくれる人がいることは知っていたし、そういうお客さんとはお会計の時に会話をしたりもしたが、まさかそこをずっと追いかけてくれている人がいたなんて。
「そのおすすめ本を読んでいくうちに、この本を好きな人はどんな人なんだろうって、気になっちゃって。それでお店に行く理由がだんだん、本からおねーさんになって……気づいたらもう、好きでした」
あまりにもまっすぐで子供っぽいのに熱を持つ、冷たいバニラアイスに乗るサクランボのごとく鮮やかな赤をはらんだ答え。途端に、シュワッと弾けた心へ甘さが広がる。初めて告白されてから幾分か経ち、こうやってメロンクリームソーダをつつく少年と今ここにいる時点で、私の答えなんてとうに決まっているのだ。けれど――。
「よし。それ飲んだら、行くよ」
「え? まだ早くない?」
「先に、本屋に寄ろ。別のおすすめ本、教えてあげるよ」
答えを少年に教えてあげるのは、もう少し先。私がメロンクリームソーダを飲み物と認められるようになってからにしよう。
『メロンクリームソーダポップ』 (了)
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