究極の接客

独立起業

　寺井美里、35歳。エステサロン『サロン・ド・ミサト』の店長。そう、店長！

　いよいよオープンの日を迎え、私は指南書『文香バイブル』を胸に抱え､ドキドキしながらお店を開ける。

　気合い十分。トップギアで身構える私は、かかってきた電話もワンコールで取る！

「お電話ありがとうございます。サロン・ド・ミサトでございます」

「広告の『母娘(おやこ)でエステプラン』の予約をしたいの。今日の午後って空いてるかしら？」
「そうですねぇ、本日予約がこみ合っておりまして、２時半からのご予約でしたらお取りできます」

　本当は他の予約など一件も入っていない。何時からでも大丈夫だがこう言っておけば､人気のエステ店という印象を与えられる。

『嘘も方便、プレミアム感を演出するのもお客様に喜んでいただくコツですわ』
文香バイブルにはそう書いてあった。

「あらそう。それじゃその時間で良いわ。お願いね」

　新規の予約が母娘プランというのも嬉しかった。

『季節のイベントを行いましょう。お客様は期間限定という言葉にときめくものですわ』
さすがは文香バイブルの提案！！
　私は感動を覚えながら母娘エステの準備を整えた。