最高のエステ

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最高のエステ

 このみちゃんと私はそれぞれ別室で施術をする。  白鳥様に失礼なことを言ってないか不安ではあるが仕方ない。こうなったら信じて任せるしかない。  私は白いシーツの上に目をやる。 (やっぱりどう見てもカバ……) 喉まで出かけたこの言葉を必死に飲み込む。 『お客様のコンディションに合わせた最高のパフォーマンスをすること、それが一流の接客ですの』  私は文香バイブルの一説を口に出して唱えると、目の前のお母様に向き合った。 (そう、相手が誰であろうとも、一流のパフォーマンスをしてみせるわ)  私は赤茶色のボディにアロマミストをあてて、お肌の乾燥を潤していく。 「いかがですか?当店自慢のオリジナルブレンドのアロマなんですよ」 お母様はうっとりと目をつむる。  これは気持ちいいという意思表示! お客様にご満足いただいている!! 私は手応えを感じてひとまず安堵した。    文香バイブルには確かこうも書いてあった。 『お客様の個性にあったパフォーマンスができるかどうかで顧客満足度は変わるのです』  そうよ、お母様は『個性的なお客様』なのよ。この個性を生かした接客をしなくては!  私はリンパマッサージを取り止め、最高品質のクレイ(泥)パックを提案した。  そもそもこの方の体の構造でリンパがどこに通っているのかさっぱり分からなかったし、泥がよく似合う……もとい、クレイの保湿効果がこの方の乾燥肌には合うと思ったから。
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