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ビストロ・ノクターンまではゆっくり歩いても30分程度で辿り着く。急ぎ足ならもう少し早く帰る事が可能なはずだ。
僕達は出来るだけ吹きさらしにならないように、建物の壁を風よけにして急いで歩いている。
「はあ、はあ……」
荷物を持ちながらだから、早歩きとはいえそれなりに息もあがる。
「きょっぴー、荷物持とうか?」
歩き続けることに耐えきれずに立ち止まってしまった僕の所に、ヴィクターが走り寄る。
ヴィクターは人造人間。弱点はいくつかあれど、力やタフさは僕より基本的にずっと上だ。僕の分の荷物を持つのもそう難しくはないのかもしれない。
「有難うございます、でも……」
両手が塞がってしまったら危ない、そう言おうとした瞬間に僕は言葉を止めた。
「きょっぴー? ……っ!!」
最初は怪訝な顔をしていたヴィクターだったけれど、すぐにその気配に気づき身構える。
「おい、この前はお前よくもやってくれたな」
なんてタイミングが悪いんだろう。
「僵尸……!」
そう、中華街でトラブルになった、僵尸の一味であるサングラスの男だ。なんでか分からないけれど、僕の事を気に入らず因縁をつけてくる。
「えっ、あれが……!? ボク、初めて会ったかも」
ヴィクターはどうやら初対面らしい。
「す、すみません。僕達台風が来るから急いでるんです。申し訳ないのですがまた今度にして貰えないでしょうか……」
こんなところで無駄な時間を食う訳にはいかない。
僕は頭を下げて丁寧に僵尸の一味の男に頼んでみた。
「あぁ? そんな話誰が聞くか!」
……駄目だった。
この男は台風なんかどうでもいいらしい。
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