◆第四.五話:悪夢

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 地面に足をつけている筈なのに、ふわふわとして不思議な感覚を覚える。  辺りは暗く、目を凝らしても何一つ見つけることが叶わない。  恐らく僕は――また夢を見ているのだろう。  耳鳴りのように、潮騒のように、遠くから何かが聞こえてくる。  ――せ。  ――んだ。  何を言っているのか聞き取れない。けれど誰かが僕に何かを呼び掛けているのだと、それだけは何故だか理解することができた。  耳を澄ましてもう一度その声に耳を傾ける。  ――せ。  ――を、――ろせ。  その声は徐々に大きくなってゆき、だんだんと何を言っているのか聞こえるようになってきた。  でもどうしてだろう。声が大きくなってゆく度に僕の心はざわついて、ここから離れたほうがいいのではないかと、そんな不安にかられてしまう。  離れたい。  それなのに、足が動かない。  声も出すことができない。  ――ころせ。  ――あいつを。  その言葉を聞いた瞬間に、僕の心臓は跳ね上がる。  そのまま息が止まってしまうかと思った。  逃げなきゃ、ここから。  そう思って動かない足を引きずろうとすると、目の前に気配を感じた。  誰だ、そう言いたいけれどやはり声が出ない。  僕の前に誰かが立っている。  それはきっと、前にも夢で見たあの人に違いない。 「あいつを、ころせ」  無理だ。僕は首を振って拒否の意志を示す。  足が動くのなら今すぐこの場から逃げるのに。  声が出るのなら大声で嫌だと叫ぶのに。  顔の見えないその人は一歩進みよると僕の顔をまた掴む。……前の夢と同じように。
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