329人が本棚に入れています
本棚に追加
「勝手に休みにしてしまったけど、すまないね。きょっぴー」
エミリオさんの後ろから、アインさんが顔を出す。
なんとアインさんも今日はコックコートを着ていない。従業員の制服姿だ。
「もしかしてアインさんも?」
「ははは、そうなんだ。今日の厨房はジェドとスペクターさん達に任せることにして、私とエミリオがホールスタッフで頑張ることにしたんだよ」
まさかの、アインさんまでホールスタッフとは。一体何がどういう風の吹き回しなんだろう。
エミリオさんはともかく、ホールスタッフならヴィクターもいるだろうに。
「ヴィクターにはお使いをこの後頼む予定なんだ」
僕の考えていることが分かったのか、アインさんが付け加えた。でもアインさんがホールスタッフをやってまでヴィクターに頼む買い物って一体なんだろう?
「ひやっ!?」
急にアインさんが僕のおでこに手を当てたので、僕は思わず声をあげてしまった。不意打ちは卑怯だと思う、一言事前に言って欲しい。
「うーん、熱はない……顔色は……」
今度は人の顔をぺたぺた触り始めた。なすが儘にされているけれど、正直恥ずかしくて死にそうだ。その辺でやめて欲しい。
「顔が少し赤いけど、昨日よりは顔色が良いみたいだね。良かった」
一通り僕の顔をチェックした後で、真正面からにこりと笑われた。
正面からのイケメンオーラは眩しすぎて目に毒だ。慌てて僕は一歩後ずさりして顔を腕で隠す。
それと同時に、夜中はよくあんな至近距離だったのに眩しさに耐えられたものだと自分で感心してしまった。
……多分、昨日はそんな事考えている余裕もなかったからだろう。
「ひとまず体調は落ち着いているようだから、きょっぴーはヴィクターと一緒に買い物に行ってみないかい? 気分転換にもなるだろうし」
アインさんのその言葉で、アインさんがホールスタッフを代わる理由を理解した。
僕の事を気遣って、ヴィクターと買い物という名分で気分転換に出したかったのか。
回りくどいというか、その優しさが有難いというか。
思っている以上に心配させてしまっている事にも多少申し訳なく感じてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!