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台風の予報が出ているからか、思いのほか公園には人が少ない。もっとも、まだ天気は青空のままなのでまだまだ気にするような時間でもないだろう。
公園の中をゆっくりと横切りながら耳を澄ますと、風の音に混じって噴水の静かな水音が聞こえてくる。
「うわあ、大きい船!」
公園の向こう側、海の見える場所に大きな船が停泊している。思わず僕は小走りに海の方へと駆け出した。
「きょっぴーは船見るの、初めてなんだっけ?」
後から追いかけてきたヴィクターが、船を見上げる僕に訊いた。
白くて大きい船は、遠目で見るよりも近くで見ると、思った以上に大きくて、言いようもないくらいの感動を覚える。
「分からないです……。でも多分、初めてかも」
記憶がないから自信はない。けれど実物の船を見てこんなに心が踊っているのだから、きっとよほどの船好きか、初めて見たに違いない。
「かっこいいね、きょっぴー」
「中とかどうなってるんでしょうね。これだけ大きな船だから、きっと内装も凄い豪華なのかな……」
「確かに! 映画とかで見るような感じかもしれないね!」
「えっ!? ヴィクターって映画観るんですか!?」
「観るよ! ボクを何だと思ってるのかな!?」
「す、すみません……」
そんな他愛もない話を暫くかわした後で、そろそろ買い物に向かおうかという話になった。
なにせ夜には台風がやってくる。時間に余裕はあった方がいいだろう。
背中越しに聞こえる汽笛の音を聞きながら、僕たちは公園を後にした。
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