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「ぐわっ」
僵尸の男の潰れた声が聞こえて、僕は恐る恐るその目を開く。
地面にあお向けに倒れている僵尸の男と、それを見ながら驚いて固まっているヴィクターが僕の目の前に居る。
どうやら僵尸の男に何かしたのはヴィクターではないらしい。
(一体誰が……?)
「雑魚ごときにすら手を出せんとは。つくづく臆病で情けないやつだ」
そんな声と共に、カツカツと暗闇から堅い靴底の音が近づいてくる。
「そんな事だからお前はいつまでも力を発揮することが出来んのだ」
現れたのは白髪交じりの老人だった。勇ましい顔つきで、見たところ60台後半といったところだろうか。冒険家のようないで立ちをしていて、捲った袖から見える腕は太くて筋肉質だ。
「えっと……その、助けて下さって有難う御座いました」
慌てて僕がお礼を言うと、何故だか呆れたような顔をされてしまった。
「お前は馬鹿か? 一体何をしているのだ?」
「えっと……?」
もしかしてこの人は僕の事を知っているのだろうか?
ただ事ではないと気づいたヴィクターが、警戒しながら僕の傍に寄った。
「おい、お前よくもやってくれたな……」
そんな僕たちの間に割って入るように、先ほどやられた僵尸の男がゆらりと立ち上がる。
「ふん、僵尸か。……私の専門は西洋のヴァンパイアでな。生憎と燃やす以外の効果的な対抗手段を、今は持ち合わせていないから戦うのが面倒だ。死にたくなければこの場から離れるがいい」
僵尸だと分かってもなお、その老人は動じる気配もない。深く刻み込まれた皺を更に深くして、激しい憎悪の眼差しを僵尸の男に向けている。
「くたばれ、じじいが!」
僵尸の男は地面を蹴ると、勢いよく老人に殴り掛かる。
流石に拳常節でやりあったら老人の腕力では勝ち目はない。
「危ない、逃げて!」
僕は咄嗟にその老人に叫ぶ。けれど老人は僕の事を「ふん」と一瞥した後ですぐに僵尸の男に向き直る。
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