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「歴戦のヴァンパイアハンターを、舐めるな!」
ヴァンパイアハンター、その言葉を聞いて僕は耳を疑ってしまった。
老人はそんな僕の驚きはよそに、僵尸の男の拳を片手で受け止めるとすかさず男の腹に余ったもう片方の手で掌底を叩き込んだ。
「ぐはぁっ」
男はまるで車にでも弾き飛ばされたかのような勢いで、煉瓦の壁に叩きつけられてしまった。
「嘘……」
僵尸の男だってエミリオさんよりは圧倒的に弱かったけど、それでも普通の人間と比べて決して弱いわけじゃない。
「きょっぴー、あの人凄く強いよ」
ヴィクターが低い声で僕に言った。
それに、ヴァンパイアハンターって……一体どういう事なんだろう。
さっきは僵尸の男に邪魔されてしまったけれど、僕の事を知っているようだった。
一体あの人は……。
「灰になるまで燃やし尽くしてやる」
その言葉で我に返る。あの老人は僵尸の男を燃やしてしまうつもりだ。
いくらなんでもそれはまずい。
「ま、待ってください!!」
慌てて僕は老人と僵尸の男の間に割って入る。
すかさずヴィクターが僵尸の男に肩を貸すと、老人から距離をとった。
「邪魔をするな、聖弘」
僕の名前を呼んだ。僕の心臓は大きくどくんと脈打った後、そのまま激しく連続で鼓動を刻み始める。口から心臓が飛び出してしまいそうなほどだ。
「あの、僕の事ご存じなのでしょうか……。その、僕は記憶が無くて……」
時間を稼ぐ意味でも、それに自分の事を訊ねる意味でも、老人に問いかける。
「全く、お前は託された仕事すら遂行する事も出来ない、確固たる自分の意志もない。本当にだめなやつだ、聖弘」
老人は見下すような眼差しを僕に向けた。その冷たい視線にぞくりと背筋が寒くなる。
この感覚、どこかで……。
そんな僕の戸惑いなど気にも留めることはない。
「仕方ない、お前にかけた暗示を解いてやる」
「きょっぴー! 逃げて!」
ヴィクターの叫ぶ声が聞こえる。
ああ――これは夢とおんなじだ。僕の顔に向かって大きな手が伸びてくる。
避けなきゃ、そう思うのに体は全く動かない。
その人の手が僕の顔を掴んだ瞬間に、僕の意識はブラックアウトした。
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