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◇ ◇ ◇ ◇
僕の両親は、二人とも僕が物心つく前に亡くなったそうだ。
昔、近所の人たちが僕を見てそう言っていた。
祖父がその話をする事はなかったけれど、両親が居ないのはやはりそういう事なのだと僕は幼心に理解した。
僕を一人で育ててくれた祖父はとても厳格な人で、随分と幼いころから厳しくしつけられ、怒鳴られたり怒られることも日常茶飯事だった。
それは多分、僕に人と違う所があったから余計だったのだと思う。
主に見た目の部分だったけれど……人より赤みがかった瞳、それに少し尖っている歯。
それに気づいたクラスメイト達に随分と揶揄されて、両親が居なかった事も同様に何度も追及されて。
何時の頃からだったろう。
それが辛くて、次第に学校へ行く足が遠のいた。
同様に祖父も普通の人とは少し違って、特殊な面を持っていたかもしれない。
それは主に、職業的な面だ。
祖父は日本では多少珍しい、『ヴァンパイアハンター』と呼ばれる仕事に就いていた。どうやら僕の家系は祖父よりもっと昔の代から、外国で脈々とハンターの職業を継いできた、由緒正しい家系だったらしい。
唯一残された一族である僕に対して、祖父からの重圧は計り知れないものだった。いずれは自分の後を継がせたいと考えていたのだろう。
けれど、僕は祖父の期待に応えられるほど強い人間でもなかったし、むしろどちらかといえば弱い人間だった。祖父のような人にとって、僕はとても歯がゆい存在だったと思う。
『お前は何をしても失敗ばかりでどんくさくて、その上泣き虫の出来損ないだ。もっと強く、自分の意志を持てないのか』
そんな罵声をよく浴びせられた。
学校にも行けなくなってしまった僕の事を叱咤する意味もあったのだと思うけれど……弱い僕には只々、辛いだけだ。
僕は泣く度すぐに怒鳴る祖父に怯え、暗い部屋の中で一人ずっと震えて……。そんな折だった、祖父が僕の部屋をこじ開けて入ってきたのは。
『お前に最後のチャンスをやろう』
おびえる僕の前に立って、祖父は言った。
『今からお前の記憶の一部を封じよう。長きにわたってのさばり続けるヴァンパイアが居る。そいつの店に潜り込め』
あの手が僕の眼前に迫る。
『そして、相手が油断した所を……殺れ』
僕はその言葉が恐ろしくて震えた。
『いいか、これはヴァンパイアハンターとなるべき運命(さだめ)を持って生まれた【ダンピール】の、果たすべき使命なのだぞ』
吸血鬼と人間との間に生まれた子供は『ダンピール』と呼ばれ、吸血鬼を倒す力を持つと言われている。だから祖父は、そのダンピールである僕に対して、ヴァンパイアハンターの跡継ぎとしての並々ならぬ期待をかけていたのだ。
――そうだ、僕は『ヴァンパイア』と『人間』の間に生まれた『ダンピール』だった。
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