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「あ……」
僕の顔を掴んでいた手が離れた後、僕はその場にへたり込んだ。
「大丈夫!?」
ヴィクターが駆け寄ると、僕とその人の間に割って入る。
いや……もはや『その人』ではなく、僕の祖父、だ。
「思い出したか、聖弘よ」
祖父が僕を見下ろしている。その眼はやっぱり冷たいものだった。
「そんな、お爺、さま……」
それだけ、やっとの思いで僕は言葉にした。
アインさんのお店に、『ビストロ・ノクターン』に転がり込んだのは偶然ではなかった。しかもただ転がり込んだだけじゃない。
『相手が油断した所を……』
酷くショックだった。
これから先もずっと働いていきたい、そう思った素晴らしいあの場所を。
壊すために自分がそこに行かされたという事実に僕は絶望した。
「計画が狂ってしまったが仕方ない。暗示自体は完全に解いたわけではないのだ」
僕の意志など無視するかのように、祖父は尚も話を続ける。
耳を塞いでしまいたかった。全部聞かなかったことにして、忘れてしまいたかった。
もう一度。
「やめて貰えますか? きょっぴーの親族の方みたいだけど……嫌がってるじゃないですか!」
ヴィクターが強い口調で、祖父に怒った。
祖父は微動だにせず、視線のみをヴィクターに向ける。
「ふん、人造人間如きが口出しするな。私の敵はヴァンパイアのみだが、邪魔だてするなら貴様も容赦はしない」
その言葉にヴィクターが一歩、後ずさりする。
駄目だ、ヴィクターに戦わせるわけにはいかない。
僕は知っている、祖父は無茶苦茶に強い。
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