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……でもそれよりも。
初めて会った日に嬉しそうに僕に握手を求めてくれたヴィクター。
初めて僕がホールスタッフをする時に、要領の悪い僕に何度も丁寧に接客を教えてくれた。
祖父は本気だ。
もしも戦いあうことになったなら、喧嘩レベルじゃ済む訳がない。
一緒にホールで沢山笑いあったヴィクターに命がけの戦いなんて、そんな事をさせたくはないんだ。
「っ……お爺様! や、やめてください!」
僕は祖父を止めようとしがみ付く。ジロリと一瞥した後で祖父に振り払われて僕は尻もちをついた。
「きょっぴー!」
ヴィクターの叫ぶ声が聞こえる。
「ヴィクター、逃げて! アインさんに知らせて下さい!」
まだ起き上がることの出来ない僕は、とにかく逃げて欲しいと力の限りヴィクターに叫んだ。
「駄目だよ、きょっぴーを置いてなんて……!」
尚もそう言ってとどまるヴィクターの元に一歩ずつ祖父が近づいていくのが分かる。
僕は力を振り絞ってもう一度祖父の足にしがみ付いた。
「聖弘、いい加減にしろ!」
「やめてください、お願いです……!」
絶対に足を離すわけにはいかないと、何度蹴られても僕はしがみ付き続ける。
自分でも驚くほど、怖いという感情よりも止めたいという感情の方が勝っていたのだ。
「いい加減にしないと……!」
祖父の手が僕の首根っこを掴んだ。
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