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「うちの従業員に手荒な真似をするのは……止めて頂けますか?」
荒ぶる風の中から、確かに聞こえたその声。
はためく布のような音を頼りに僕は背後を振り返ると、そこにその人はいた。
「アイン、さん……!」
正直に言えば、来ないで欲しかった。
来たら危ないと思ったからだ。
でも、その姿を見て酷く安心したのも事実だった。
アインさんはふわりと僕たちの横に立つと、驚くほどすんなりと僕の手を取って自分の方へと引き寄せる。
そのあまりの自然な動作に誰一人動くことが出来なかった。
「どうして……?」
僕達がこんなことになっているなんてわかるわけないのに。
「うん、……じつは僵尸の一味の一人がうちの店に飛び込んできたんだよ。君たちが今変なやつに絡まれている、ってね」
爽やかな笑いと共にウインクで、アインさんは答えた。
よく見たら、マントのようなものを身に着けている。……台風であおられているのに大丈夫なんだろうか。
「ああ、もしかしてさっきの……。そっか、店長に知らせてくれたんだ」
ヴィクターがほっとした顔をする。
さっき僕達が助けたあの人が……意外に良いところもあるんだなとちょっと感心してしまった。
「ふん、まさかお前の方から来るとはな。しかし決着を着けるには丁度いい」
祖父はアインさんを前にしても、全く動揺しない。
「ダンピールでありながら、ヴァンパイアに助けられるとは情けない、本当に滑稽だ」
祖父は僕の方を見て、心底軽蔑するような顔をする。僕はその眼に怯え、アインさんの腕にしがみ付いた。
そんな僕を見て、アインさんの顔は曇る。
「うちの大切な従業員を愚弄するのは止めて頂けますか」
僕を庇いながら、アインさんが祖父に言い返す。
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