◇ヴァンパイアハンターとヴァンパイア

9/10
前へ
/179ページ
次へ
「うちの従業員に手荒な真似をするのは……止めて頂けますか?」  荒ぶる風の中から、確かに聞こえたその声。  はためく布のような音を頼りに僕は背後を振り返ると、そこにその人はいた。 「アイン、さん……!」  正直に言えば、来ないで欲しかった。  来たら危ないと思ったからだ。  でも、その姿を見て酷く安心したのも事実だった。  アインさんはふわりと僕たちの横に立つと、驚くほどすんなりと僕の手を取って自分の方へと引き寄せる。  そのあまりの自然な動作に誰一人動くことが出来なかった。 「どうして……?」  僕達がこんなことになっているなんてわかるわけないのに。 「うん、……じつは僵尸の一味の一人がうちの店に飛び込んできたんだよ。君たちが今変なやつに絡まれている、ってね」  爽やかな笑いと共にウインクで、アインさんは答えた。  よく見たら、マントのようなものを身に着けている。……台風であおられているのに大丈夫なんだろうか。 「ああ、もしかしてさっきの……。そっか、店長に知らせてくれたんだ」  ヴィクターがほっとした顔をする。  さっき僕達が助けたあの人が……意外に良いところもあるんだなとちょっと感心してしまった。 「ふん、まさかお前の方から来るとはな。しかし決着を着けるには丁度いい」  祖父はアインさんを前にしても、全く動揺しない。 「ダンピールでありながら、ヴァンパイアに助けられるとは情けない、本当に滑稽だ」  祖父は僕の方を見て、心底軽蔑するような顔をする。僕はその眼に怯え、アインさんの腕にしがみ付いた。  そんな僕を見て、アインさんの顔は曇る。 「うちの大切な従業員を愚弄するのは止めて頂けますか」  僕を庇いながら、アインさんが祖父に言い返す。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

329人が本棚に入れています
本棚に追加