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「じゃあ、『きょっぴー』ですね」
「きょっ……!?」
突然あらぬ方向から飛んできたみょうちきりんな名前に僕は仰天する。慌てて声の主を探すと、二人ばかり、少し小柄な少年と金髪の青年が興味津々の顔をして部屋の入口からこちらの様子を窺っていた。
「お目覚めになったのなら、小腹が空いてるんじゃないかと思いまして」
金髪の青年が一歩進み出て会釈した。
「ああ、ありがとう。ジェド」
アインさんがジェドと呼んだ人に片手をあげる。僕がそれを目で追っていたのに気付くと、アインさんはジェドさんを親指で指した。
「うちの、副料理長」
「ジェドです。どうぞよろしく、きょっぴー」
小麦色の肌に金髪のジェドさんは僕に向かって軽く会釈をした。何故だか分からないけれど、それだけなのにどこか気品と威厳を感じられた。
といっても、最後の「きょっぴー」で気品も威厳も台無しだけど。
「よろしくお願いします。……あの、なんで『きょっぴー』なんですか」
「聖弘、だからですよ」
僕の問いかけの答えになってないような答えを返して、満足そうにジェドさんは微笑んだ。笑うとなんだかどこかの王子様みたいな感じにも見える。
それより、もうきょっぴーで確定なんだろうか。そのネーミングセンスはどうなんだろうかと正直思うのだけれど。
肝心のジェドさんは、全く訂正する気はないという顔をしている。
その顔を見た瞬間に、僕は反論するのを止めた。
「それから、こっちがホールスタッフのヴィクター」
アインさんはもう一人のやや小柄の少年の方に歩み寄るとその背中を軽く叩く。少し照れ屋なのか、伸びた前髪で片目を隠しがちなヴィクターさんはおずおずと前に進み出た。
「よろしく……きょっぴー」
もう、きょっぴーは確定らしい。
ヴィクターさんは少しぎこちなく僕に右手を差し出す。
「あっ、よろしくお願いします。ヴィクターさん」
僕は差し出されたその手を取って握手をした……瞬間に僕の手からぼろり腕が落ちた。
ヴィクターさんの、腕が。
「うぇっ、ヴええええええええええええ!?」
僕の叫び声が、部屋中に響き渡った。
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