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中の視点
あたしは物心ついてからこの家から出たことが無い。
まあ所謂引き籠りって奴。家の中に備え付けられている菜園の世話はあたしがしているから、全くの穀潰しというわけでは無い、と思いたいけど。
気付いたときには両親はいなくて、あたしはずっと姉さんと二人で暮らしてきた。
姉さんがどんな仕事をしているのかはよく分からない。でも、毎日決まった時間に何か作業をしたり、外に出てしばらく帰ってこなかったりするから、何かしていることはしているんだろう。あたしを養うために。
家には菜園の他にも大量の本とビデオが備えられていて、運動器具なんかも一通り揃ってる。だから姉さん以外と接することがなくても、退屈はしない。
「姉さん、あたしも外に出た方が良いかな」
「どうしたの、藪から棒に」
あるとき、こんなことを言った。なんてことは無いきまぐれだった。
「家にある本やビデオの中にはさ、閉鎖された世界から脱出するってのが沢山あるじゃん」
「また影響されたの」
溜息を吐く姉さんは、いつもと同じ。あたしがここから出る必要なんてないという顔だ。
「他に影響受ける物なんか無いもん。でさ、大体出た先はとんでもなく素晴らしいか、とんでもなく碌でもないか。姉さんから見てどう?外の世界って」
「……あんたにとって今の生活ってどうなの?」
「まあまあ楽しいけど」
「……じゃあ出ない方が良いね。碌でもなかったときの損失が大きい」
「そっかあ」
それからは二度とそんな提案をすることなんて無くて、今日もあたしは姉さんを見送って、元気に引き篭もる。
姉さんの立っていた所に何か落ちている。本やビデオで見たことあるぞ。これは羽だ。白い羽。
あたしは外に出たことが無いから見たこと無いけど、白い羽を持った生き物ってどんなのがいるだろうか。白鳥、鸚鵡、鸚哥、天使。
こんな羽をひっつけて帰ってくるなんて、実は姉さんは天使だったりして。
と言うことは天使に世話されているあたしは何だ。神か。
天使よ、これからもしっかり神を世話してくれたまえ。どうせお互い、ここ以外に行ける所なんて無いのだから。
そんな空想に耽りながら、あたしはこれからもこの箱の中で暮らしていく。
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