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外の視点
妹とここで暮らし始めてもう15年近く経っただろうか。
あれは妹がまだ、今は亡き母の胎の中にいた頃。宇宙開発に乗り出した私達地球人は、未知の知性体と衝突し、戦争になった。
人知を越えた生命力を持つそのエイリアンに対して、国連軍は成層圏付近で核兵器を用いての殲滅を強行した。
その結果は最悪。そもそも地球人より遙か以前から宇宙を旅していたらしい彼らに宇宙空間で敵うはずが無かった。
知性体は核爆発の寸前に分子テレポートで脱出。
地上の人々の大反対と引き替えにもたらされた高高度核爆発がもたらしたのは、向こう何十年か、地球の全ての技術者の脳を結集しても復旧不可能な電波障害だけ。
我々地球人の情報伝達の手段は、一気に産業革命以前まで逆戻り。
便利なデバイスから得られる情報に依存しきっていた人類は、その多くがパニックに陥りやがて自滅。
国連軍に選ばれた一握りの「地球人類の宝と認められた」人間だけがかろうじて建造が完了していたスペースコロニーに逃げ込むことが決定し、あとの人類は地面に這いつくばって滅びを待つのみだ。
今日、国連軍から伝書鳩で通達が来た。(一切の電波を用いた通信が不可能になったため、遠方への通達はもっぱらこれである)
「貴君の亡命シェルター開発技術発展への功績を認め、新天地への脱出の権利を与える。同封の証明書を持参してロケット発射基地に期日までに向かうこと」
移住計画が始まってから数年経って通達が来るなんて、随分遅いじゃ無いか。
既に決まっていた人が出発を待たずに亡くなったとか、そんな感じかもしれない。
その新天地へ行くための証明書とやらは、一通しかなかった。
仕方ない。妹は人類全体を巻き込んだパニックの中で出生届すら出されずに、他ならぬこの私がこのシェルターに押し込んだのだから。略奪、裏切り、地域によっては共食いさあえ起こり始めたあの時代では、私の貧相な頭ではそうする以外の考えを導けなかった。
このまま私がスペースコロニーに発ったら、妹はどうなるのだろうか。
すぐ死ぬような気もするし、案外しぶとく生き残りそうな気もする。
悩んでいても仕方が無い、他に選択肢なんてないのだ。私は手紙の返事を伝書鳩に括って飛ばした。
さようなら、と呟いた私を一瞥して、伝書鳩は羽毛を散らしながら飛んでいった。
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