9人が本棚に入れています
本棚に追加
始まった地獄
取り巻きの女子達も不思議そうに顔を見合わせている。
と、後部座席の窓が開いて、桜子さんが顔を見せた。
「千夜雅。私の鈴木研究員と高級料亭で食事するなんて許さない事よ!」
桜子さんの声は怒りで張ったのか、取り巻き達にまで聞こえたみたい。
皆、口々に話してる声が聞こえてくる。
「鈴木研究員って桜子様が好きな?」
「桜子様の好きな人を取るなんて、何て女なの!」
「一般市民のくせに生意気だわ!」
そんな…桜子さんも鈴木研究員のファンだったなんて…。
しかも、土曜日の鈴木研究員との光景を見られていた事に私は今気づいた。
桜子さんはギロリと鬼の様な形相で私を睨みつけている。
せっかくの美少女な顔が台無しだが、それ以上に何だか怖い。
取り巻き達からの視線もキツく、私は思わず肩をすくめた。
ここは穏便に場をおさめるしかない。
「ごめんなさい、桜子さん。私、鈴木研究員を桜子さんから奪う気は全然有りません…」
謝ってはみたものの、その一方で桜子さんも鈴木研究員に片想いしているだけじゃないかって気もしている。
だけどそんな事とてもじゃないけど言える雰囲気じゃない。
「奪う気が無いなら、ジュースでも買って来て。今日も暑くなりそうですからね。お代は勿論、貴女が出すのよ」
「えっ!私がどうして、そんな事…」
「一般市民のくせに私にお金を払わせる気?!貴女が買って来なさいよ!勿論、歩いてね」
「「そうよ!そうよ!」」
取り巻き達まで騒ぎ出した。
「謝る位なら態度で示すことよ」
桜子さんは勝ち誇った表情をする。
「岡村、もういいわ。校門前で降ろしてちょうだい」
「かしこまりました。お嬢様」
「えっ!ちょっと…」
理不尽な思いをした私は車の中の桜子さんに声を掛けるが、車は私を取り残して、校門前ヘ行ってしまう。
慌てて追い駆けると、取り巻きの何人かが、通せんぼをして、桜子さんに近寄れないようにしてしまった。
取り巻きの壁の向こう側から、岡村さんという(多分執事)初老の男性が車から降りる。
「ちょっと!退いてよ!」
私は取り巻きをかき分け様としたが、複数の取り巻きに、逆に両腕を掴まれてしまい、身動きが取れなくなった。
優雅に車から降りる桜子さんは、私をチラッと一瞥すると、髪をかき分け言う。
「言っときますけど、購買の安いジュースで済ませないでね。コンビニに売ってる新商品で期間限定のオレンジティーを買って来なさい」
それだけ言うと、桜子さんは学園内に入って行った。
どうして…。
最初のコメントを投稿しよう!