スピーチ

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スピーチ

ぐうううう! 「ゴホン!明日の午後の特別授業は、我々1年生を対象にしたスピーチで…」 ぐううううううう!! 「…体育館で開かれる」 もういい加減、恥ずかしい。 早くHR終わらないかな。 クスクスと小さな笑い声も聞こえる。 お腹を両腕で押さえながら見渡すと、桜子さんは口では口角が上がっているけど、私を見る目は笑っていなかった。 …何だか怖い。 と、次の先生の話は続く。 「スピーチする方は、パラサイトのワクチン開発に成功した鈴木航研究員をお招きする」 一斉にざわつきだす教室内。 え?鈴木研究員って、あの鈴木研究員よね? 私は空腹なのも忘れて、しばし茫然としてしまう。 そして、段々と喜びが湧き上がってきた。 「静かに!」 先生の注意に教室内は静けさを取り戻す。 ただし、私のお腹の音を除いてだけど…。 「以上、帰りのHRを終了する」 先生が出て行った途端に教室内は騒ぎ出した。 「鈴木研究員ってテレビによく出てくる、あの鈴木研究員だよな?!」 「凄い有名な方ですわ!良かったですわね、桜子様!」 「ええ。明日の午後が楽しみですわね。最もスピーチですから静かにしてなきゃいけませんけど」 何処かトゲの有る声で取り巻き達の言葉に応える桜子さん。 明日も私をお昼抜きにしようとするみたい。 忍びないけど、授業中に早弁するしかなさそう。 私はカバンを手に持つと、早く何か食べようと、そそくさと教室を出た。 下駄箱に着いて今度は靴が無かったら、どうしようかと思ったけど、開けたら普通に在る。 朝の花壇での件も有るから、恐る恐る靴の中を除き込むけど、画鋲も入っていないみたい。 だけど、安心したのも束の間だった。 靴を履き終えたところで、クラスでも屈強な男子が2人両側から、私の腕を掴んだのだ。 「ええっ?!ちょっと何?!」 驚いた私の後ろから桜子さんの声が聞こえてきた。 「あら、せっかくだから、今日の庶民の味のお礼に私の高級車で乗せていって差し上げますわ」 「まさか桜子様のお誘いを断ることはしませんわよね?!」 真後ろから大勢の人の気配…取り巻き達も居る様だ。 高級車なんて別に乗りたくないし、乗ったら最後どうなるか解らない。 私は腕を振りほどこうとしたが、力じゃ男子には敵わない。 「大人しくしろ」 耳元で迫力の有る声で凄まれる。 私は怖くて堪らない。 「は、離して!」 「神宮寺の車に乗ったら離してやる」 そんなことより早く何か食べないと気が遠くなりそう。 だけど、朝から何も食べてない私に食べ物は与えられなかった。
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