9人が本棚に入れています
本棚に追加
片道1時間
私はシートベルトを外すと、仕方なく桜子さんの肩を揺さぶった。
「桜子さん、起きて。貴女の家に着いたわよ」
「…う…うーん…」
桜子さんは、薄目を開けると、車内を茫然と見渡し。
「汚い手で触らないでちょうだい!」
私の手を払い除ける。
「汚い手って、貴女が寝てたからでしょ?!」
私は起こしてあげないで頭でも叩いてやれば良かったと思った。
「お嬢様は連日の勉学や習い事でお忙しいのです。多めに見てあげて下さい」
岡村さんが場を治める。
「そうですわ。私の豪邸まで高級車の旅を満喫出来たじゃ有りませんの!図々しいことはなさらないで」
すっかり目が覚めた様な桜子さんは、そう言うとシートベルトを外して、車から降りた。
私は文句を言いたかったが、それで車内に、この暑い中取り残されたら…と思って、急いで桜子さんに続いて降りる。
周りの景色は見た事ない風景。
「それでは、ご機嫌よう」
桜子さんは、私がキョロキョロしてるのにも構わず、カバンを岡村さんに持たせて豪邸の中に入って行った。
後には知らない町に私、ただ1人…。
私は携帯をカバンから出す。
そして、マップアプリを開いた。
「えっ!こんなに遠いの?!」
ナビ機能のお陰で道は解ったけど、その距離に私は唖然とする。
時間に換算すると1時間位かな。
私はナビに沿って歩き出したが、空腹にとうとう我慢出来なくなり、近くにあるコンビニでタマナグミレモン味を買ってしまった。
「美味しい…」
私はお腹が空いていたのもあり、一袋全部食べてしまうと、空袋をゴミ箱に捨てて、モサコ目指して歩き出す。
お腹が多少満たされた事で、さっきまでより足早に歩けた。
お陰で、まだお父さんがお店を閉める前にモサコに着く。
「有難う御座いましたー。…よお、雅。ってどうした?顔真っ赤だぞ」
私はお父さんの驚いた様子に、飲み物も買えば良かったと後悔した。
1時間も炎天下の中歩いたから、顔に熱がこもってしまったみたい。
「ちょっと歩き過ぎただけ…大丈夫」
私の言葉にお父さんは何か言おうとしたけど、その時お客様がやって来る。
「いらっしゃいませー。…雅、冷蔵庫にスポドリが在るから、それ飲んでシャワー浴びてこい。今日は洗濯も掃除もしなくていいから」
「うん…」
私はお父さんに甘えて、言われた通りにしようと家の中に入って行った。
夕ご飯の後。
自室で学園からの課題をこなしていた私は、不意にドアがノックされた音に課題を中断する。
「開いてるわよ」
私の声に自室に入って来たのはお父さんだ。
最初のコメントを投稿しよう!