軟禁

1/1
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

軟禁

「い…!んぐっ!」 嫌と叫ぼうとしたら、手で口を塞がれた。 「これで良くてよ。教師に見つからない内に連れて行きなさいな」 桜子さんのその言葉を合図に私は取り巻き達に無理矢理、何処かへ連れてかれる。 その先は体育倉庫だった。 「キャッ?!」 私は取り巻き達に背中を押されて、倉庫の中に転ぶ形で入れられる。 慌てて立ち上がった私の耳に、絶望的に鍵の締まる音が聞こえた。 急いでドアを開けようとしたけど、開かない。 「出して!出してよ!」 私は扉を叩きながら必死に訴え掛けるけど、鍵が開く音はしなかった。 そんな…。 私はズルズルとその場に座り込む。 もうじき鈴木研究員のスピーチが聞けると思っていたのに…。 「…う…ひっく…うう…」 私は声を押し殺して泣いた。 一体、いつになったら扉は開くのかな…。 そう思う一方で鈴木研究員のスピーチは今日はもう聞けないだろうなって気がしていた。 もう一度、鈴木研究員の姿をこの目に焼き付けたかったのに…。 私、桜子さんに直接実害を与えていないのに…。 腕時計のお陰で時間は解るけど、だからと言って今の私に出来ることはない。 とうとう放課後の時間になってしまった。 鈴木研究員は忙しいし、もう帰っちゃっただろうなぁ…。 私は北向きにある体育倉庫の中に居たから、暑さは幾分かマシだったけど、喉が渇いて仕方なかった。 と、積みあげられてるマットの上に座っていた私の耳にカチャっと鍵が開く音が聞こえる。 誰が来たかは察しがつくから私は立ち上がった。 案の定、扉が開いた先に居たのは。 「鈴木研究員にお会いできて嬉しかったですわ」 そんな憎まれ口を叩く桜子さんと、その後ろに控えて逃げ道を塞いだ取り巻き達だった。 見える範囲には、男子達の姿は無い。 でも私は少しも安心出来なかった。 「もう気が済んだでしょ?早く此処から出して!」 「そうはいきませんわ」 「私、貴女に何かした?」 「ええ。私の鈴木研究員に色目を使ったじゃ有りませんの」 「色目って…私、そんな事してない!」 「良い加減になさい!」 桜子さんの怒りを含んだ声が倉庫中に響き渡った。 私が思わず固まると桜子さんはゆっくり私に近づいて来る。 「鈴木研究員に相応しい女性は、この私…。貴女みたいな一般市民ではなくってよ!」 桜子さんはそう言うと私の頬を思い切り引っ叩いた。 「何するのよ!」 私は思わず桜子さんを引っ叩き返す。 「痛っ!一般市民のクセに生意気ですわね!」 「桜子様に手を上げるなんて…!」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!