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仄かな恋心
お父さんは、そう言うと朝ごはんを食べ始めた。
お母さんが補足する。
「お父さんも鈴木くんも、かつての教え子だったのよ」
「お母さんも知ってるの?」
「ええ、お父さんと鈴木くんは3年生の時、同じクラスだったから」
「最近…ここ数年は互いに忙しくて会ってねーからな。鈴木はパラサイトってウイルスが蔓延してた時に、ワクチンを開発した。それが元でマスメディアに取り上げられちまってる。雅が産まれる前の話だからな。知らなかったのも無理ねーぜ」
そんな凄い人とお友達なんて…お父さん、只のケーキ職人じゃなかったんだ。
「鈴木研究員とお友達なんて良いなぁ…。お父さん」
「?何だよ?」
私は朝ごはんを食べてるお父さんに、思い切って言った。
「私、鈴木研究員とデートしたい!」
「確かに鈴木は独り身だが、研究に没頭したいって言ってるぞ」
「そうよ。それに歳はお父さんと変わらないのよ。雅、同じクラスとかに好きな人は居ないの?」
お父さんとお母さんが反対する様な事を言ってくるけど、私は子供っぽいクラスの男子達より、鈴木研究員の方が眩しく見える。
「お願い!勿論、ただでとは言わないわ。鈴木研究員とデートさせてくれたら、洗濯と家中の掃除、私がこれからするから」
私は両手を合わせて、お父さんにそうお願いする。
うちは、お母さんが家事が全く出来ないから炊事から、洗濯、掃除、お店の運営まで全部お父さんが1人でやってる。
洗濯と掃除だけでも私がやる様になれば、お父さんの負担も減ると思うんだけどなぁ。
お父さんは暫く私を見てた。
「…わーったよ。今日の夜、ダメ元で鈴木に連絡してみる。断られても知らねーからな」
「わー!ありがとう、お父さん!」
私は思わず隣に座っているお父さんに抱きつく。
「それよか、さっさと飯食っちまえ。片付けないと店開く準備も出来ねーからな」
「ちょっと、貴方…」
お母さんが咎める様に、お父さんに声をかけるが、お父さんは何処か他人事の様に、お母さんに言った。
「鈴木みたいな堅物が、ガキを本気で好きになる訳ねーだろ。それに誰かさんが家事出来ねーなら、猫の手も借りてーところだしな」
「「うっ!」」
お父さんの言葉に、お母さんも私も、言い返す事が出来なかった。
学園の校門付近ではクラスメートの女子達が集まっている。
いつもの事だ。
「あ、いらっしゃったわよ!」
女子の1人が、私を追い抜いて校門前に停まった高級車を、指差した。
先ず運転席から執事風な初老の男性が車から降りる。
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