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桜子の苦悩
どうやら、桜子さん達の怒りを煽った様だ。
「可愛く有りませんわね!」
桜子さんは、そう言うと私を思い切り押し倒した。
「キャアッ?!」
堪らず仰向けに倒れる私に桜子さんは馬乗りになる。
「千夜雅!私に手を上げたこと後悔させて差し上げますわ!」
桜子さんは、そう言うと私をぶった。
しかも今度は1撃じゃない。
左右に往復ビンタをしてくる。
「桜子様ー♡もっと痛め付けてください!」
取り巻き達のはしゃぎ声が遠く聞こえた。
「痛い!止めて!」
「下手に喋ると舌を噛みますわよ」
優越感に浸った桜子さんの表情が段々と涙で滲んで、よく見えなくなる。
助けて…お父さん…お母さん…鈴木研究員…。
私が痛みに耐えてギュッと目を瞑ると、鈴木研究員の笑顔が脳裏に甦った。
「フン…自分の無力さを思い知ることですわ!」
桜子さんの往復ビンタは止まらない。
私は只、泣くことしか出来ない。
取り巻き達は始め面白がってたけど、やがて桜子さんの余りの執拗さに、恐れをなしたのか遠巻きに眺め始めた様だ。
「こんな一般市民の娘が…私より成績良いなんて…。鈴木研究員にも優しくされて…。私だって頑張っているのに…神宮寺の娘に相応しくなろうとしているのに…」
不意に私の顔に暖かい雫がポタポタと落ちる。
桜子さんが泣いている…?
私は昨日、車の中で疲れて眠ってしまった桜子さんを思い出していた。
私にテストをカンニングしたのか聞いたり、岡村さんが勉強や習い事で忙しいと言っていたことも。
桜子さんは令嬢だから、いつも完璧を求められて、努力していたんだ…。
でも親御さんには、その努力を認められずに、憧れの鈴木研究員と土曜日会っていた私を羨ましく思っていた…。
桜子さんがみなまで言わなくても、私の顔に次々と落ちる涙が、全てを物語っている。
私は上半身を起こした。
「な、何ですの…?」
戸惑う桜子さんに構わずに、私はギュッと彼女の身体を抱き締める。
桜子さんの身体は僅かに震えていた。
「…う…う…うあああ!」
桜子さんは私の腕の中で泣き始める。
私も涙が止まらない。
でも、それはさっきまでの涙と違う。
桜子さんの苦悩を垣間見た涙だ。
「千夜!此処に居たのか!…って、お前たちどうなってるんだ?」
ようやく先生が私を探していて見つけた様だった。
「千夜も神宮寺も大丈夫か?」
先生が私達の元へやってくる。
「千夜、ここは先生に任せて保健室で頬を冷やしてもらって今日はもう帰れ。他の先生方には見つかったって伝えておくから」
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