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高級令嬢
そして、後部座席のドアを開けた。
中から出てきたのは…。
「桜子様〜!」「おはよう御座います、桜子様!」
スラリとした細い身体に、腰まで伸びた黒いロングヘアー、少しキツめだけど、美少女と言ってもいい位のクラスメート、神宮寺桜子さんだ。
「ご機嫌よう、皆さん」
桜子さんの言葉に、取り巻きと言っていいであろう女子達が黄色い悲鳴をあげる。
ここ…女子校じゃないんだけどなぁ。
只、私達一般市民より、桜子さんの家庭は、ずっと大金持ちだというのは事実だろう。
桜子さんが校門から学園内に入ると、取り巻き達もぞろぞろ付いて行く。
何となく肩身の狭い思いをした私は、取り巻き達の更に後ろから桜子さんに付いて行く形になった。
その日の夜。
お母さんがお風呂に入っている間、お父さんは明日のお店の仕込みをしている。
私はリビングで、録画してあるDVDの中に、鈴木研究員が出ている番組が収録してあるのを見つけ、お父さんが来るまで再生してみた。
『今日のゲストはパラサイトのワクチン開発に成功した、鈴木航さんです』
『宜しく…』
ブツッという小さな音と共にテレビが消される。
「何するのよ?!」
私は思わず振り返って、リモコンでテレビを消したお父さんに喰って掛かった。
だけど、お父さんは平然と懐から携帯電話を取り出す。
「録画されたのより、生の方が良いだろ」
「それじゃあ…!」
「ああ。朝言った通り、鈴木に連絡してやるよ」
そう言いながら、私の正面の椅子に座ったお父さんは携帯を何やらタップして本当に電話をかけている。
私はドキドキしながら、お父さんの方を見つめていた。
やがて、電話が繋がったのか、お父さんが喋り出す。
「もしもし、鈴木。久しぶりだな、元気か?」
お父さんがいつ本題に入るのか、私は胸の高鳴りを必死に抑えながら、お父さんの声を聞いていた。
「ああ。…ああ、そうか。実は今日連絡したのは、理由があるんだ」
来た!
私はお父さんの次の言葉を待つ。
「娘の雅、知ってるだろ。今じゃもう高校生だけどよ。何でもあんたとデートしたいんだと」
鈴木研究員は何て応えるのかしら?
すがる様にお父さんを見つめると、目が合った。
お父さんは電話を掛けたまま、電話を持っていない方の手を開いて、私に向かって突き出す。
「忙しいのは承知の上だ。鈴木、研究も大事だろうが、たまには気分転換するのも悪くねーと思うぜ」
朝、お父さんも言ってたけど、やっぱりダメ元なのかな。
だけど、お父さんも食い下がっているのが解る。
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