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約束
私は祈る様な気持ちで、お父さんの声を聞いていた。
…と、やがて、お父さんが指で丸を作る。
えっ!それって、もしかして…!?
「ああ…ああ。なら、決まりだな。丁度、明日は土曜日だ。待ち合わせ場所と時間は鈴木に任せる。ああ。…ああ、解った。じゃあ宜しく頼んだぜ」
お父さんが電話を切った。
私はテーブルに身を乗り出す。
「お父さん!鈴木研究員、良いって?!」
「始めは渋っていたけどよ。俺の頼みなら、良いってよ」
私は思わず、バンザイした。
「やったあ!お父さん、ありがとう!大好き!」
「それよか、待ち合わせ場所と時間聞かなくて良いのか?」
お父さんの言葉に、私は慌てて、かしこまる。
「ちょっと待ってて…」
私は携帯を取り出すと、メモアプリを開いた。
「良いよ、言って」
「11時に、山村亭で待ち合わせだとよ。そこで昼飯でも、どうかって」
山村亭と言えば、そこの店主さん…山村凌さんも、お父さんの友達だった筈。
中学生の頃、家に遊びに来た事が有るから知ってるけど、何か小柄で明るい感じの人だったなぁ。
山村亭は料理が美味しいって好評だから、そこで鈴木研究員とお昼ご飯を食べれるなんて楽しみだわ。
「うん!打てた!」
「何が打てたの?」
私がメモアプリに、お父さんの言った待ち合わせ場所と時間を入力し終えたのと、お母さんがお風呂から上がったのは、ほぼ同時だったらしい。
後ろから携帯を覗き込まれて、私は咄嗟に画面を隠した。
「何、明日の鈴木とのデートの待ち合わせ場所と時間をメモしただけさ。雅も画面隠す程の内容じゃねーだろ。減るモンじゃなし」
「そうだけど…」
「鈴木くんとデートって…貴方は心配じゃないの?」
「鈴木なら雅に手荒な真似はしねーだろ。それにデート先が山村の料亭なら、尚更だ」
「そうじゃなくて…鈴木くんに雅を取られちゃうって言う寂しさとか」
「朝も言ったが、鈴木がガキに本気になる訳ねーからな」
悪びれもせずに、お父さんはそう言うと。
「何なら雅、一緒に風呂入るか?」
と、ニヤリと笑いながら立ち上がる。
「貴方?!」「お父さん、お母さんが本気にするから止めて」
驚くお母さんを尻目にお風呂に入りに行くお父さん。
私も携帯をしまって自室に向かった。
明日のデートに着て行く服を選ばなきゃ。
鈴木研究員って、どんな服装が好みなのかな?
ガーリー?シック??カジュアル???
お父さんなら知っているかもしれないけど…。
不意に、「ガキに本気になる訳ない」って言うお父さんの言葉が脳裏に甦る。
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