山村亭

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山村亭

「えっ!鈴木くんと雅ちゃん2人で来たの?」 「はい。千夜くんから昨夜久方ぶりに連絡が来まして…。その時、千夜くんが、雅さんが僕に会いたい様な事を言っていると、言うものですから」 事実だけど、そう言われると何だか照れるわ。 「それってデートって事?鈴木くん、雅ちゃんと付き合うの?」 「貴方、鈴木研究員は千夜さんのお願いを聞いただけでしょう?」 奥から着物姿の似合う女性…山村店主の奥さん、茜さんが出て来て言った。 それも事実だけど…今度は何だか落ち込む。 そうよね…鈴木研究員は忙しい中、私に素敵な夢を見せてくれているだけ。 お父さんや茜さんが言う様に、本気で私に惚れている訳じゃない。 私が下を向くと、茜さんは言った。 「雅ちゃん、そんなにガッカリさせてごめんなさい。でも、女の子はね、恋に恋する時期があるの。後、5年もすれば私が今、言ったこと解ると思うわ」 恋に恋する…? 確かに今の私じゃ解らない。 鈴木研究員は格好良くて、頭も良くて、優しくて…。 鈴木研究員以上に良い男性がいるとは思えないんだけどなぁ。 「鈴木くんに雅ちゃん。カウンター空いているけど、そこにする?それともお座敷??」 「雅さんは、どちらが良いですか?」 鈴木研究員が振り返って私に好きな方を選ばせてくれる。 私はどうせなら鈴木研究員に甘えることにしようと開き直った。 「せっかくだからお座敷が良いです!」 本来、2人ならカウンター席にするべきなのかもしれない。 それにカウンター席なら、調理をしている山村店主と鈴木研究員も積もる話が出来るだろうし…。 でも、お座敷には入った事ないし、奥で鈴木研究員と2人で居たかった。 「お座敷だね?2名様、ご案なーい!」 山村店主の声に茜さんと同じ様な和服を着た店員さんが出て来る。 「こちらへ、どうぞー」 店員さんに先導されて、鈴木研究員と私は1番奥のお座敷に着いた。 「お品物、お決まりになりましたら、こちらのベルでお呼びください」 私と鈴木研究員が靴を脱いでお座敷に座ると、店員さんはベルを手で示して去っていく。 「雅さん、お品書きです」 鈴木研究員が2つ在る内の1つを私に渡してくれた。 「有難う御座います!」 私は嬉々として、ワザと手が触れる様に受け取ると、お品書きを見ながら、内心、ガッツポーズする。 「うーん…サーモンとイクラ丼にしようかな」 「僕は、とろろ蕎麦にします。雅さん、店員さん呼んでも良いですか?」 「はい!お願いします!」 私の返事に鈴木研究員はベルを鳴らした。
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