1日だけの夢

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1日だけの夢

結局、鈴木研究員にドキドキして、食べた物の味も解らないまま、お昼ごはんを食べ終えた私は鈴木研究員にエスコートされる形で話を振られた。 「雅さん、高校生活は楽しいですか?」 「あ、はい」 どうしよう…会話が続かない。 私が内心焦っていると、鈴木研究員は私の心を読んだ様に話し始める。 「僕は小さい頃から勉強が好きで…。でも人と関わるのが苦手で、雅さんのお父さんが初めて出来た友達だったんです」 「えっ…」 確か、お父さんからは鈴木研究員と会ったのは高校の時だと聞いている私は驚いた。 鈴木研究員…中学までお友達居なかったなんて…。 「雅さん。貴女のお父さんは高校時代、不良だったとは言え、話してみると本当の意味で悪い人じゃなかったんです」 鈴木研究員の話は続く。 「一見近寄り難い人でも、接し方次第で友達になれます。それって素敵な事だと思いませんか?」 一見近寄り難い人…私の脳裏に何故か桜子さんの顔が思い浮かんだ。 「鈴木研究員…」 「一生に1度しかない高校生活、楽しんで下さいね」 鈴木研究員の笑顔の眼差しは、どこまでも暖かかった。 それから、鈴木研究員との2人きりの時間はあっという間に過ぎた。 ほとんど鈴木研究員による話が多かったけど、私にも解る様に話を噛み砕いてくれて聞いている私は、それだけで心が弾んだ。 こういうのを幸せって言うんだろうなぁ。 「…もうこんな時間ですね。そろそろ帰りましょうか?」 鈴木研究員の言葉に腕時計を見ると、結構な時間になっている。 いい加減、帰らないと洗濯物も取り込まなきゃいけないし、自室だけまだ掃除を終えてないわ。 「はい…鈴木研究員」 「はい?」 「今日は有難うございました。鈴木研究員も忙しいでしょうけど、頑張ってください」 月並みな事しか言えなかったけど、鈴木研究員はニッコリ笑ってくれた。 「有難う御座います。タクシーを呼びますからモサコまでお送りしますよ」 モサコとはお父さんのお店の名前だ。 2人で(鈴木研究員は伝票も持って)お座敷を出る。 出入り口付近で、カウンター席の向こう側から山村店主が笑顔で声を掛けてきた。 「あれ?もう帰るの?」 「はい、ご馳走様でした。山村先輩、又、来ますね」 「うん!又、会おうねー。茜、お勘定お願い」 山村店主は調理で手が離せないみたい。 代わりに茜さんが、鈴木研究員の持っていた伝票を受け取ると、レジを打つ。 鈴木研究員は、お店に入る前にも言った様に本当に全額出してくれた。 「「有難うございましたー!」」
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