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帰国
俺は高校を卒業した、その足でフランスに渡っていた。
そして、帰国した空港にて。
その日は日曜日だった。
「よお、久しぶりだな」
「「お帰りなさい、千夜くん」」
「保ー、会いたかったー」
香澄と鈴木が出迎えてくれる中、山村だけは俺にしがみつく。
「あんた、変わんねーな」
「わーい!保に褒められたー!」
「褒めてねー、褒めてねーぞ、山村」
そう言って力ずくで山村を半ば強引に引き離した。
「酷い、保!」
「まあまあ、山村先輩。…千夜くんもお変わりなさそうですね」
「そう言う鈴木もな」
俺はそう言うと、香澄の直ぐ近くまでやってきた。
「千夜くん…?」
「香澄、遅くなったが、後で荷物の検査終わったら、結婚指輪をやるよ」
「千夜くん…!ありがとう!」
香澄は嬉しかったのか目を潤ませながら、両手で自分の口を押さえる。
「良い子にしてたか?香澄」
頭を撫でながら俺は香澄の顔を覗き込んだ。
「千夜くん…!」
香澄は手を払いのけもしないで俺に抱きつく。
やっぱ、山村より香澄に抱きつかれた方が柔らかくて良いな。
「もう物件と引越し業者の手配はしてある。後は2階を掃除して家電と家具を入れれば一緒に暮らせるぜ、香澄。1階は店用に改装しないといけねーから、直ぐには開店出来ねーだろうけどよ」
香澄は俺からそっと離れると目尻に涙を浮かべて言った。
「千夜くん…本当にパティシエになったのね」
「俺が何の為にフランス行って帰って来たと思ってるんだよ」
「まあまあ、千夜くん。諸橋さんは感極まっているんですよ」
鈴木が場を治めようとする。
ところが、そこに山村が割って入った。
「良いな良いな良いな〜、香澄ちゃん!保と同棲出来て」
身体を左右に揺らしながら、俺の腕を両手で掴む。
俺は腕を振り解くと言った。
「そう言う山村だって俺や鈴木と家に泊まったこと有るだろうが。それでコレは出来たのか?」
俺がニヤリと笑いながら小指を立てると山村は大きく首を振る。
「僕の恋人は保だけだもーん。…ぐえっ?!」
「馬鹿野郎」
俺は相変わらず良い位置にある山村の首根っこを掴んで凄んだ。
「えっ!千夜くん、私とだけじゃなくて、山村先輩とも、そういう関係だったの?」
「香澄も、コイツの言う事、真に受けるんじゃねー」
「山村先輩は、この春、専門学校を卒業して今は料理屋でバイトをしてるんですよね?因みに僕は今T大学医学部に、諸橋さんはK大学の教育学部に通っています」
流石、鈴木。
俺は鈴木と山村に店の場所を教えたくなり、後で住所をメールで送る事にした。
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